よみタイ

佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

毎日締めるネクタイは、何か理由づけをして自分のシンボルに

エリートサラリーマンになれなかった理由を考えると、いろいろ心当たりがありすぎて虚しくなる。
僕の中でエリートサラリーマンの象徴は、“ネクタイ”と“会議”だ。

パリッとスーツを着て、キリッとネクタイを締め、会議でビッとした発言を決めるかっこいいエリートサラリーマン(擬音が多くてバカっぽいな)。
いささか古いイメージだし、“エリートサラリーマン”も死語に近い気はするが。

昔からとにかく会議は苦手だった。
結論がバンバン出るなら長くても耐えられるが、日本の会社の会議のほとんどはそんなものではない。
「とりあえず集まればみんな真剣に考えるでしょ」というノリだから、いつまでたっても結論も方針も見えてこない。

サラリーマン時代はそれなりに我慢して平然を装っていたが、集中できるのは1時間くらいまで。
1時間半を過ぎると、持っているボールペンの分解・組み立て作業をはじめ、2時間を過ぎるとペットボトルのフタの縁のギザギザを数えはじめ、2時間半を過ぎるとシャープペンの魔改造に取り組みはじめる。
エリートサラリーマンになんて、なれるわけがなかったのだ。

本題のネクタイの話題に移ろう。

そもそも僕は就職活動時、ネクタイをしないでも働ける仕事を優先的に考えた。そしてまんまと、出版社の編集職という年中ラフな格好が許される仕事に就いたのである。

だから本来であれば、ネクタイについてあれこれ語る資格もないはずだが、実はネクタイをたくさん持っている。
なぜなら、社会人になって約15年が経過した頃、今度はカジュアルビズスタイルに飽きてきたのだ。

30代も半ばを過ぎていたし、編集長という役職についていたので、カジュアルからフォーマルへシフトチェンジしたとしても、いぶかしむ人はいない。
というわけで、ジャケパンorスーツスタイルで5年間ほど過ごした。
僕にとってネクタイスタイルは、敢えて選んだ道だったのだ。

その間にどんどん集めたネクタイは、今でも家のクローゼットの中に100本くらいぶら下がって眠っている。
その後フリーになったので、いっさいネクタイを締めない日々に戻ってしまったのだ。

青いレジメンタルタイは、自分を象徴するような気がしてお気に入りになった

カジュアル系から高級ブランド系まで数あるネクタイの中で、一番のお気に入りは何だったかと改めて考えてみたら、J.PRESSの青いレジメンタルタイだったような気がする。
僕が考えるもっともティピカルなネクタイらしいネクタイ。頻繁につけていた記憶がある。

本来であれば、レジメンタルというのは難しい柄だ。
もともとイギリス軍旗の柄が由来であるレジメンタルストライプは、そのパターンや配色によってみずからが属するグループを表すもの。
日本にはそうした習慣は根付いていないから、どんな柄だって自由に選んでいいはずなんだけど、僕はどうしてもこだわってしまい、何らかの理由が欲しかった。

このレジメンタルタイが気に入っていた理由は、高校の制服のブレザーの青色にそっくりだったからだ。
もちろんそんな理由を人に話したことなどなかったが、自分の心の内だけで、「これは自分を表すカラーだ」と決めていたのだ。

青いネクタイが好きだった理由がもうひとつ。

サラリーマンになったばかりの1990年代前半、スウェディッシュポップが流行した。
シーンの代表格だったEGGSTONEというバンドのファーストアルバムに、「IF YOU SAY」という曲がある。

♬君は僕の服装を良く思ってはいないけど、もし君が望むのなら、僕は典型的な青いネクタイをしたっていいんだよ〜♬
いかにもダメそうな男の歌だが、僕はこの曲がなんだか好きで、青いレジメンタルタイを結びながらいつも口ずさんでいた。

毎日ネクタイを締めて仕事をしている人にとっては、「何じゃそりゃ」という話かもしれないけど、ネクタイについてはもう一度、無理矢理にでも自分の中で意味を考えてみると楽しくなるんじゃないかな。
BGM 「IF YOU SAY」EGGSTONE
https://www.youtube.com/watch?v=8jOYWQPE3N8

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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