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佐藤誠二朗「グリズリー世代のバック・トゥ・ザ・ストリート」
グリズリー……それは北アメリカ北部に生息する大きな灰色のヒグマの名であると同時に、白髪交じりの頭を形容するスラング。頭にちらほら白いものが目立ち始める40~50代を、アラフォー、アラフィフといってしまえば簡単だけど、いくつになってもオシャレと音楽が大好きで遊び心を忘れない彼らを「グリズリー世代」と名付けよう――
そんな思いを胸に、自身もグリズリー世代真っ只中の著者がおくる、大人の男のためのファッション&カルチャーコラム。

トラックスーツは、サブカル親父向きのカッコいいストリートアイテムだ

ちょっと涼風が吹くようになると、ネルシャツとともに僕がまずクローゼットから引っ張り出すのがトラックジャケットだ。

トラックジャケット……。
なんだかすごくかっこいい響きだが、要するにジャージである。
先輩方よ、そしてご同輩よ、知ってましたか? 最近はジャージと呼ばないんすよ。
トラックジャケット、上下揃いの場合はトラックスーツである。

服の呼び名の変化については、前にも本コラムで書いた。
そんなのちゃんちゃらおかしい、ジャージはジャージだろ! と思うかもしれない。その気持ちはすごくよくわかる。
でも、ジャージ→トラックジャケットの呼び名チェンジについて、僕はそんなにおかしいとは思っていない。

だって正確に言えば、ジャージというのは素材名なんだから。
元来スポーツ用の服なので、運動場を指す「トラック」という言葉が入った呼び名の方がふさわしいのだ。
ジャージと呼んだのは日本だけで、欧米では昔からトラックスーツだったわけだし。

だいたい、素材名をそのまま服の呼び名にするのはおかしい……。
……いや、待てよ。じゃあなんで、「Gパン」は「デニム」と呼ばれるようになったんだ?
この話、突っ込んでいくとややこしくなりそうなので、とりあえずここで終了します。

ジャー……、いやトラックスーツはイモくさくない! 由緒正しいサブカルウェアなのだ

本来はトレーニング用ウェアであるジャー……、いやトラックスーツは、イモくさい中学生やおじいさんのための服ではなく、昔から若者のストリートスタイルと縁が深かった。

最初にオシャレに取り入れたのは、1970年代後半にイギリス・マンチェスターに登場したペリーボーイズと呼ばれる集団だった。
スキンヘッズの流れを汲み、サッカーを愛するワーキングクラス集団だったペリーボーイズは、乱暴者のフーリガンとして認識されていたスキンヘッズスタイルではなく、こざっぱりしたヨーロッパのスポーツウェアに身を包んでサッカースタジアムに集結した。
その最も象徴的なアイテムがトラックスーツだったのである。

ペリーボーイズの風俗は、1980年代にはリヴァプールやロンドンにも広がり、カジュアルズと呼ばれるようになっていく。彼らの正装もやはりトラックスーツだ。
そして1980年代後半のマッドチェスター、1990年代のブリットポップ、そして今世紀に入ってから世間を賑わしたストリートギャング集団のチャヴもまた、トラックジャケットを着こなした。

彼らのお気に入りは、フィラやセルジオ・タッキーニ、ルコック、エレッセ、アンブロ、そしてフレッドペリーなどの英仏伊ブランドである。

その流れとは別に、アメリカでは1980年代中頃、ヒップホップスタイルにトラックスーツが取り入れられていく。
有名なのは上下アディダスのジャー……、いやトラックスーツに身を包んだランDMC。いい年のおじさんであれば、その姿は頭に強く刻まれているだろう。

そんなこんなで僕は、ストリートの香りが強く漂うトラックジャケットが好きだ。
モッズ、スキンヘッズからの正統派ブリティッシュストリートカルチャー支持者なので、フレッドペリーのものを愛用している。

昨今はずっとアスレジャースタイルがトレンドであり、上記のようなうんちくを知らない若い世代もよくトラックスーツを着ている。
若いパリピ系の子たちの間では、アディダスの三本線パンツを穿くスタイルが浸透して久しい。
だけど、あれはちょっと真似できない。
間違いなく本物のイモ親父になりそうで怖いのだ。

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佐藤誠二朗

さとう・せいじろう●児童書出版社を経て宝島社へ入社。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わる。2000~2009年は「smart」編集長。2010年に独立し、フリーの編集者、ライターとしてファッション、カルチャーから健康、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動を行う。初の書き下ろし著書『ストリート・トラッド~メンズファッションは温故知新』はメンズストリートスタイルへのこだわりと愛が溢れる力作で、業界を問わず話題を呼び、ロングセラーに。他『糖質制限の真実』『ビジネス着こなしの教科書』『ベストドレッサー・スタイルブック』『STUSSY2017 FALL/HOLIDAY COLLECTION』『DROPtokyo 2007-2017』『ボンちゃんがいく☆』など、編集・著作物多数。

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