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せきしろ「東京落物百景」
落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は、粘着テープと靴底、という不思議な組み合わせから、いろんなテープの使い方を考えた著者。今回は、サングラスの落とし物を発見したようで――

もしも鈴木雅之がマラソンに出てサングラスを投げ捨てラストスパートしたらどんなものが映るのだろう?

都内の路上にて発見した、サングラス。マーチンのもの、ではないようだ。(写真/ダーシマ)
都内の路上にて発見した、サングラス。マーチンのもの、ではないようだ。(写真/ダーシマ)

鈴木雅之Aと鈴木雅之Bがいたら、そのサングラスには永遠に鈴木雅之が……。

落ちているサングラスは様々なことを考えさせてくれる。

真っ先に考えるのは高橋尚子のことだ。シドニー五輪のマラソンでサングラスを投げてラストスパートし、見事金メダルに輝いたことを思い出し、すると落ちているサングラスが高橋尚子のものに思えてきて、「もしかしたらここでもまたラストスパートしたのかな」などと考えてしまう。

しかしすぐにそれは間違えであることに気づく。なぜならこのサングラスは高橋尚子がかけていたスポーティなタイプのものではないからだ。

ならば誰のサングラスの可能性があるのか?

まずは鈴木雅之のサングラスではないかと考えてみる。しかしその可能性はあっという間に消える。高橋尚子同様、形が異なることはもちろん、鈴木雅之のサングラスはこちらが映るミラータイプであるからだ。

ちなみにサングラスをかけた鈴木雅之同士が向き合った場合(仮に、鈴木雅之Aと鈴木雅之Bとする)、鈴木雅之Aの姿が鈴木雅之Bのサングラスに映り、それが鈴木雅之Aのサングラスに映り、さらにそれが鈴木雅之Bの……といつまでも続くことになる。まるで合わせ鏡のようであり、ドロステ効果でもある。

実際には鈴木雅之はひとりしかいなくてそのような状況になることはあり得ないのだが、架空の世界の話、たとえば2Dの格闘ゲームのキャラクターに鈴木雅之がいたとして、1Pも2Pも鈴木雅之を選択した場合、鈴木雅之同士が向かい合う(もちろん服の色は変わる)ことになるために、「合わせサングラス状態」になっているのを想像することができる。

鈴木雅之についての話が長くなってしまったが、ではこのサングラスは誰のものなのか、その想像は続く。EXILEのATSUSHIやたむらけんじはティアドロップ型のサングラスであるから違う。Mr.マリックのサングラスとも形が違うし、Mr.マリックの娘にはサングラスの印象はない。ポリシックスでもない。バービーボーイズのイマサがかけていたものとも形が違う。イマサのサングラスはジッタリンジンの『プレゼント』に出てくるような「丸いレンズのサングラス」で、私が高校生くらいの時にあれが異常にカッコ良く感じて、その中でも最もカッコ良いと思っていた跳ね上げ式のタイプのものを修学旅行の時に買ったことを思い出す。それが似合っていたのかどうか考えたらきっと似合っていなかったはずだ。それでも欲しかったのだ。

ちなみに今興味があるのはカラーレンズのハズキルーペで、時の流れを感じずにいられない。まさか実用性を求めるようになるとは高校生の頃は想像もしていなかった。

そういえば、もしも鈴木雅之がマラソンに出てサングラスを投げ捨てラストスパートしたとしたら、だんだんと離れて小さくなっていく鈴木雅之の後ろ姿がサングラスに映ることだろう。

サングラスに関する想像は尽きない。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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