2020.7.9
「非公開の店」その4~秘密の扉の向こうに素晴らしいワインと料理のペアリングが待っている〜アリゴトゥール
田口さんはこんな感じでズバッと言うので好き嫌いはハッキリ分かれるかもしれません。
「ワインが飲めないならウチにいらしてもつまらないと思います」とも言われます。
決してイジワルで言っているわけではなく考えてみればごもっともなお話で、世の中にはこんなにたくさんの飲食店があるのだから、お店側もお客側もお互いに選んでいいということなのです。
お客だからって何をしても良いわけじゃないし、お店がお客に媚びへつらう必要はないと思います。
反対にこちらも身を粉にして働いて稼いだ大切なお金をお支払いする以上、お料理も空間も心地よさもそれ相応でなければ納得いかないですよね。
その点、田口さんは十分すぎるほど心得ていらっしゃる。
その日のゲストの顔を思い浮かべながら食材を仕入れ、場合によってはひとりひとりメニューを変えているのです。
この「クードブッフ」も赤ワインは贅沢に1本使うけれどバターはほとんど使っていません。
フォン・ド・ヴォーのゼラチン質がトロトロになるまで煮詰めていくことで照りやコクを作り出すのです。
バターを使わないのは、これだけの料理を食べて最後に重たいソースだと食べきれない人もいるから。
ソースまでおいしく食べてもらうために時間と手間をかけることを惜しまないのです。
実はこちらの坦々麺は、夜中にこれだけを食べに来る人もいるというほど超絶うまいとちょっとした噂になっています。
「この担々麺はメニューの中で間違いなくいちばん重いです。化学調味料は使いたくないのでスープをひたすら煮詰めていってとろみをつけるので」と田口さん。
「帰りにラーメンでも食べて行こうと言われたくなくて、だったらうまいラーメン作ってやろうじゃないか(笑)、で始めたんです」
同じ理由でカレーも作ってしまったそう。
玉ねぎを炒める時以外にお水は使っていません。弱火で煮込んでは1日寝かせる。これを3〜4回繰り返す。
ワインもあらかじめ2〜3本分を鍋で半分の量になるまで煮詰めてから入れる。
その後の工程を訊くと、酔っ払って「最後にカレー食べた〜い」なんて言ったら申し訳ないくらい。
ただし黒毛和牛を仕入れた時にだけ作るそうで、出逢えたのは本当にラッキーでした。
誰でも入れるわけじゃないという意味では確かに敷居は高いけれど、入ってしまえばお互いに気を遣わず素晴らしい時間が過ごせるパラダイス。
シンプルにおいしくて疲れない料理に、より寄り添うではなく化学変化を楽しむストーリー性のあるワイン、この田口さんにしかできない組み合わせはまるでジェットコースターのように緩急があって最後までワクワクさせてくれる。
しかもいつでもふらりと寄れる予約の取れないレストランとくれば、是が非でも伺いたくなるもの。
ありとあらゆるコネを駆使して扉が開かれるように心からお祈りいたします。