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本当にあった映画「アルマゲドン」みたいな実験! 隕石から地球を守るNASAの挑戦

NASAが取り組んだ計画の名前は「DART」。二重小惑星進路変更実験(Double Asteroid Redirection Test)の頭文字をとっています。宇宙系のプロジェクトはこういう頭文字をとって略称が名前としてつけられることが多くあります。日本語の名称から推測できた方も多いかと思いますが、まさに小惑星の軌道を変更させる実験です。

この軌道の変更方法が実にユニーク。なんと、探査機を小惑星に衝突させて 軌道を変える文字通り「体当たり」な計画です。NASAのミッションというと、個人的にはクールで冷静、というイメージもあったので、この大胆な発想にNASAが至ったこと自体に驚きを感じました。けれど「アルマゲドン」では小惑星に核爆弾を持っていっていたことを考えると、DARTは比較的穏やかなのかもしれませんね。発想はダイナミックなミッションではあるものの、小惑星の動きを把握し、そこに対して緻密なコントロールをしながら接近し、探査機を激突させる一連の動きは高い技術力を要するため、さすがNASA、という印象でもあります。

今回のミッションで軌道変更の実験対象となったのは、太陽系の中を周回する小惑星「ディディモス」とその衛星「ディモルフォス」からなる二重小惑星です。これらの天体は、太陽の周りを楕円形の軌道で回っていて、地球と火星、木星の間を周回しています。DARTミッションでは、「ディディモス」の衛星である「ディモルフォス」の軌道を変更させることが狙い。具体的にはこの公転周期を短くすることが目的です。ただ、ここで注意しておきたいのは、この天体が地球に衝突しそうだった、ということではなく、あくまで衝突に備えた、回避方法の実証実験ということです。

「アルマゲドン」ではテキサス州くらいの大きさの小惑星に対して破壊を行いましたが、このミッションでの衝突対象のディモルフォスは直径約160mです。探査機DARTのサイズは、全長約1.9mと、軽自動車程度のサイズ感で、衝突対象に比べるとさらに小柄。この大きさの差で軌道を変化させるには、効果的な角度で衝突する必要があることは容易に想像がつくと思います。

今話題の月面着陸で、日本の月面着陸実証機SLIMは100mの精度で着陸するピンポイント着陸の達成を目指していたことからも、DARTミッションも高い技術力が必要だったことがわかります(SLIMのミッションについて詳しく知りたい方は、連載第5回をチェックしてみてください)

ディディモス連星小惑星系に衝突する前の NASA のDART探査機のイメージ図 画像提供/NASA
ディディモス連星小惑星系に衝突する前の NASA のDART探査機のイメージ図 画像提供/NASA
ケネディ宇宙センターで撮影されたDART実機 写真提供/NASA
ケネディ宇宙センターで撮影されたDART実機 写真提供/NASA

探査機を衝突させた結果、NASAはディモルフォスの軌道を大きく変化させることに成功しました。DARTの衝突により、ディディモスの周りを回る公転周期は32分短くなったことが確認されました。DARTの当初の最低目標時間は73秒だったので、その目標値を大幅にクリアしたことになります。
“リアル”アルマゲドン計画は、無事成功しました。

NASAが確認している直径10km級の小惑星は4つだと言います。そして、そのすべてを追跡しているとのこと。これらの”巨大”な小惑星は、現状地球の脅威とはなっていないですが、今後変化する可能性もあるのでNASAは引き続き注視していくとしています。

これにより、地球を天体衝突から守る惑星防衛(プラネタリーディフェンス)の手段の一つとして、探査機を衝突させる手法がある程度有効とわかったのです。
隕石だけでなく、この連載の中で宇宙天気について触れたように、様々な角度から宇宙災害は発生します。この対策を行っていくには、まずどのような災害が発生しうるのかを多くの人が把握することが重要です。この連載が少しでもその役に立てば嬉しいなと思っています。

この記事のお供はこのお酒!

 広島県尾道にあるSHIMANAMI BREWERYの「STRIKE PILSNER(ストライクピルスナー)」。ダーツのブルを射抜くようなネーミングとパッケージ、小惑星にピンポイントで衝突(ストライク)するこのミッションとの相性バツグンです。「最高の”普通にうまい”」を追い求めるこちらに、私の好みのど真ん中も射抜かれました。

 次回連載第9回は3月22日(金)公開予定です。

参考資料

Deep Impact and the Mass Extinction of Species 65 Million Years Ago /NASA 2021/12/03

How an asteroid ended the age of the dinosaurs/Natural History Museum

Five Years after the Chelyabinsk Meteor: NASA Leads Efforts in Planetary Defense/NASA 2018/2/15

隕石落下のリスク評価 ―100 年間の落下隕石― /高橋 典嗣 日本スペースガード協会「あすてろいど」

NASA, SpaceX Launch DART: First Test Mission to Defend Planet Earth/NASA 2021/11/24

NASA Confirms DART Mission Impact Changed Asteroid’s Motion in Space /NASA 2022/10/11

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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