よみタイ

飛び込み・寺内健を鼓舞した、野村忠宏・北島康介、ふたりのレジェンドの言葉とは!?

「結局、選手って自分ひとりじゃ強くなれないし、うまくなれない。いろんな方のサポートがあって、選手としてやれているんです」(撮影/熊谷貫)
「結局、選手って自分ひとりじゃ強くなれないし、うまくなれない。いろんな方のサポートがあって、選手としてやれているんです」(撮影/熊谷貫)

親友・北島康介の、「凄いよ」を糧に来年の東京に挑む!

予選敗退に終わったリオオリンピック。実は取材エリアに顔を出してくれたのは野村だけではなかった。もうひとり、親友の北島康介がいた。

日本競泳界初のオリンピック3大会連続メダルという偉業を達成した北島はリオに出場できず、引退を表明したばかりだった。北島に声を掛けられ「泣きそうになった」と振り返る。

2つ年下だが、なぜだかウマが合う。親友であり、同志。サラリーマン生活に区切りをつけて、現役復帰を本気で考え始めたのも北島から掛けられた「戻ってこないの? 一緒にやろうよ」のひと言がきっかけだった。

「康介はフランクに付き合ってくれるのでうれしいですよ。僕より後にオリンピックに出て、金メダルを2大会連続で獲って、ロンドンでもメドレーで銀を獲って僕より先に引退して……。野村さんと同じように、康介に対してもリスペクトがあります。2人がいるから、金メダルを目指したいっていう思いがあるんです。リオの取材エリアで2人が来てくれて、自分の信じた道が嘘ではなかったんだなと思うことができた。予選落ちという結果に対して“応援してくれている人がどう思うんだろう?”って不安な気持ちがあったんです。でも2人から声を掛けられて、次を目指そうと思えた。康介にも感謝しかないです」

東京オリンピック内定を受け、北島からも言葉をもらった。

「健ちゃん、凄いよ。頑張りなよ」

金メダリストのレジェンドに「凄い」と言われることが、どれほど励みになることか。このひと言も、高いモチベーションを呼び込んだ。

受けた言葉を己のパワーとして変換する。

どう受け止めるか、どう感じるかはあくまで本人次第。サラッと受け流してしまえば、心には残らない。

1・6秒しかない演技を完璧にこなすために、彼は日常に、生きざまにこだわる。野村や北島のちょっとした言葉からも、求道のヒントを見つけようとする。だから受け流さない、しっかりと心に留めることができる。

人の言葉を大切にする寺内は、人を大切にする人でもある。

野村、北島ばかりでなく、小学5年からずっと教えてもらっている馬淵崇英コーチ、そして長く務めてくれた練習パートナーの親友……絆の深い人間関係を築くことができるのも、彼の誠実な人間性ゆえ。感謝の気持ちを忘れず、礼を欠かさず、人の思いを感じ取ろうとする。

寺内はこう強調する。

「結局、選手って自分ひとりじゃ強くなれないし、うまくなれない。いろんな方のサポートがあって、選手としてやれているんです」

支えてくれる人がいるから、喜んでもらいたいという思いが強くなる。
あのリオがあったから、この東京がある。

取材エリアできっと今度は笑顔の2人が待っている。その理想を現実とするために――

第4回に続く)

profile
てらうち・けん/1980年8月7日生まれ、兵庫県出身。ミキハウス所属。
地元のJSS宝塚スイミングスクールで、生後7か月から水泳を始め、飛び込みに転身。中2で日本選手権、高飛び込み史上最年少初優勝。96年、高校1年でアトランタオリンピックに出場するなど、飛び込み競技の第一人者。2000年、シドニーオリンピックでは、高飛び込みで5位、3m飛び板飛び込みで8位入賞。01年、世界選手権の3m飛び板飛び込みで銅メダル、04年ワールドGPカナダ大会で国際大会初優勝など活躍。09年、現役引退。スポーツメーカーでのサラリーマン生活を経て、11年復帰。来年の東京オリンピックで6大会目の出場を果たす。
その他最新情報は本人公式ツイッターでチェック! ◆https://twitter.com/terauchiken

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

週間ランキング 今読まれているホットな記事

  1. 「神戸大学以上の学歴の女性」としか結婚しないと決めた東大文一原理主義者【凹沢みなみ×『学歴狂の詩』紹介マンガ】

  2. 「学歴」というフィルターで世界を認識する狂人たち【小川哲×佐川恭一 学歴対談・前編】

  3. 小説家デビューは「受験勉強」で攻略できるのか?【小川哲×佐川恭一 学歴対談・後編】

  4. 灘中高→4浪で東京都立大のナツ・ミートが『学歴狂の詩』を読み解く

  5. 伊藤弘了「感想迷子のための映画入門」

    岩井俊二『Love Letter』のヒロインが一人二役である理由 ――あるいは「そっくり」であることの甘美な残酷さ

  6. 新刊 : 佐川恭一
    笑いと狂気の学歴ノンフィクション

    学歴狂の詩

  7. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    「田舎の神童」の作り方【学歴狂の詩 無料公開中!】

  8. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    「阪大みたいなもん、俺は三位で受かるっちゅうことや!」マウント気質が強い〈非リア王〉遠藤【学歴狂の詩 試し読み】

  9. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    天才・濱慎平がつぶやいた「こんなんもう手の運動やん……」【学歴狂の詩 試し読み】

  10. 学歴にこだわる陰キャはエモ系界隈に逆襲できるのか?【凹沢みなみ×佐川恭一 対談】

  1. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    女性用風俗に通う女性たちの心のうちを描くコミック新連載【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話前編】

  2. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    同僚の先生に嫌われるのが怖かった教頭の決意【白兎先生は働かない 第14話】

  3. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻が逝った。オレ、もう笑えないかもしれない 第1話 さよなら、タマちゃん

  4. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    同世代の男にはもう懲りたと思っていたけど、新人セラピストの彼に出会って…【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話後編】

  5. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    「どうして管理職になってしまったんだろう」教頭先生の苦悩【白兎先生は働かない 第13話】

  6. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    普段は厳しい女性上司を演じているけど……SM専門女性用風俗で見つけた「本当の私」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第4話】

  7. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    絶対に定時で帰る中学校教師……その驚きの理由とは? 第1話 部活にはいきません

  8. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    「教師が足りない…」苦しい学校現場を運営する教頭先生【白兎先生は働かない 第12話】

  9. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    30代独身女性が女風を利用して気づいた「一番大切にするべきなのは…」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第2話後編】

  10. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    体育祭の準備でブラック労働に陥る中学校教師【白兎先生は働かない 第2話】