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元プロ野球選手・木村昇吾の37歳からの挑戦。最高年俸30億ともいわれるクリケットで世界を目指す!

クリケットでは、バッターうしろにある3本のウィケット(棒)を倒されるとアウト。それを阻止するために、スイングは野球とは違い、縦が基本になる。(撮影/熊谷貫)
クリケットでは、バッターうしろにある3本のウィケット(棒)を倒されるとアウト。それを阻止するために、スイングは野球とは違い、縦が基本になる。(撮影/熊谷貫)

近いようで遠い野球とクリケット。37歳スタートの木村はどんな思いと知恵で挑んでいるのか?

クリケットはどんなスポーツか。

簡単に言えばボウラー(投手)がボールを投げ、バッツマン(打者)が打ち、得点を競い合うゲームだ。

1チーム11人で守備と攻撃を1回ずつ行ない、守備はボウラーとウィケット・キーパー(捕手)以外の9人が自由なポジションで配置につく。打者は防具を身にまとい、ボートを漕ぐオールに似た形のバットで打つ。アウトになるまで延々とひとりで打ち続けるのが、野球のルールとの大きな相違点と言えるだろうか。360°がフィールドでファウルゾーンがないのも特徴で、アウトにならないで得点を稼ぎまくるのが名バッツマンへの道だ。バッツマンはストライカーとも呼ばれているそうだ。

しかしながら日本で競技人口が少ないということは、指導者も少ない。木村はインターネットの動画で独学しつつ、日本クリケット協会の全面協力を受けた。当初、指導を受ける際は6時間ぶっ通しで打ち続けたこともあるそうだ。

生きたボールを打てる機会が毎日あるわけではない。一つひとつのトレーニングを大切にして、自分の打ち方を模索していった。

野球は細いバットを横軸に振り切るが、太いバットになるクリケットは縦軸。アウトにならないためにコツコツ当てていく技術を持っておくことが大切だ。ところが彼はコツコツから始めるのではなく、フルスイングでボールを捉えることにこだわってきた。

「37歳になってやり始めて、クリケットをずっとやってきた人には技術でなかなか追いつけないと思うんですよ。同じ時間をもらえるなら、その人の持っている技術に勝つ自信はあります。でも時間が限られているなかで、プロ野球で身につけた元々もっているものをクリケットに付随させていったほうが絶対にいいと思ったんです。フルスイングからやっていって、そこから(細かい技術へと)下りていったらいいんじゃないか、と」

打球が約64mの境界線をノーバウンドで越えれば、一気に6点獲得できる。そのコツを最初につかんでおきたかった。個性をつけることで売り込みにもつながる。己の価値を可能な限り速やかに高めようとしている。

誰かからアドバイスを受けたわけじゃない。
どこかで近道をしなければIPLには辿りつけない。人と同じことをやっていても辿り着けない。受け身になることなく、自分の道は自分で切り拓いていくもの。生き抜くためには、目標にたどりつくためには知恵を絞り出さなくてはならない。

夢からまた夢へ。その道は経済的にも楽ではない。
「サポートしていただいている方はいる」とはいえ、プロ野球時代の貯金を切り崩しつつの生活を強いられている。クリケットで得られる収入は乏しい。3人の子供を養いながら「目標」を追いかけるチャレンジはイバラの道だ。
理解ある妻のためにも、サポートしてもらっている周囲のためにも。

「自分の力で切り拓いて、お金を稼げるような選手に早くなっていかないといけないと思っています。スリランカに行くのも、そのため。経済的には確かに厳しいですよ。でも厳しいからやらないのかと言われたらそれは違う」 

明るい反骨心が木村にはよく似合う。
ドラフト11巡目でプロ入りしてきた男はずっとそうやって荒波を乗り越えてきたのだから――

第2回に続く)

profile
きむら・しょうご/1980年4月16日生まれ、 大阪府出身。尽誠学園で3年夏に甲子園出場。愛知学院大を経て、02年ドラフト11位で横浜に入団。以後、内野全ポジションをこなせる守備力、強肩、俊足が持ち味のユーティリティープレイヤーとして、広島、西武で活躍。17年に戦力外通告を受け、クリケットに転身。プロ野球選手がクリケット選手に転向した事例は、世界で初となる。18年、男子日本代表の強化選手に選出された。
その他最新情報は公式サイトでチェック! ◆http://shogokimura.net/

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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