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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」

元プロ野球選手・木村昇吾の37歳からの挑戦。最高年俸30億ともいわれるクリケットで世界を目指す!

取材は、栃木県佐野市の渡良瀬川河川敷にあるクリケット場にて。佐野はいまクリケットの街としてこのスポーツの普及をすすめている。(撮影/熊谷貫)
取材は、栃木県佐野市の渡良瀬川河川敷にあるクリケット場にて。佐野はいまクリケットの街としてこのスポーツの普及をすすめている。(撮影/熊谷貫)

信頼できる記者の薦めもあり、わずか5秒で「クリケットをやる!」と決意した

「日本クリケット協会から日本プロ野球選手会のほうに『誰かクリケットをやる人いませんか?』という相談があったみたいなんですけど、誰もやる人がいなかったそうなんです。(協会の)事務局の人からそんな話をされた知人の記者が『いい人がいますよ』と連絡を入れてきて、5分くらいいろいろと聞いたところで“俺、やるな”と思ったんです。もう直感的に(笑)。クリケットの知識はちょっと映像を見たくらいしかない。でも競技の特性を考えても、野球の技術が活きるはずですから。

とても信頼していた記者の方が話を持ってきてくれて、野球に対する僕の情熱も知っている彼が薦めてくるんだから、これはやるべきだなって。家に持ち帰って妻に相談したら『面白そうだね』と言ってくれました。妻も野球への情熱を埋めるものがなかったらこの人はダメだって心配してくれていたみたいなんで、背中を押してくれました」

外から見れば“転職”の枠内だが、木村はそう捉えていない。

「僕はプロ野球選手であると同時にアスリート。そう考えるとアスリートをやることに変わりはないじゃないですか。トライアウトに参加したとき、自分の動きがすごくいいなって感じていて所属先が決まれば次のシーズンもできる自信がありました。まだアスリートしてやり切っていないし、そこにクリケットの話がきて、情熱も傾けることができそうだなって思ったんです。アスリートという道を野球という車で走ってきて、今度はクリケットという車に乗り換えただけ。そんな感覚なんですよ。車を例に出したら野球号の操作の仕方で、クリケット号も動く。知らないボタンはいっぱいあるけど、基本操作が野球と似ているなら何とかなるやろって」

どこか楽観的なのが、実に彼らしい。

野球の原型となっているイギリス発祥のクリケットの競技人口はサッカーに続いて2番目に多いとされ、IPLで最も稼ぐ選手はスポンサー収入などを含めて年収30億円以上といわれている。イギリス、インド、オーストラリア、スリランカ、パキスタン、南アフリカなどが盛んで、ワールドワイドのスポーツだ。しかし日本ではマイナーの域を出ない。

ビッグマネーに夢はあるものの、それだけなら動かなかったはずだ。プロ野球選手から転身したのは初めてのケースで、かつIPLでプレーできれば日本クリケット界の先駆者になることができる。今年、元横浜DeNAベイスターズの山本武白志がクリケット挑戦を表明したが、木村が活躍すればもっと広がりを見せていく可能性がある。クリケットを通じた大きなロマンこそが、情熱の動力源となっている。

「今の時代、スマホでどんな情報でも調べられるじゃないですか。日本での話ですけど、宇宙のことは調べる人がいても、クリケットのことはなかなか調べないでしょ。でもやってみたら、このスポーツは楽しい。日本にも広めていきたいなっていう思いはあります」

使命感に近い心情も、彼のモチベーションを高めている。

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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