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なぜ男は「ゴム無し無責任射精」にとらわれてしまうのか?【藤澤千春×山下素童 射精責任対談】

セックス≒射精オーガズム という危うい価値観

藤澤 著者のブレアさんがインタビューで仰ってて興味深かったのは、『射精責任』に書いている内容をおそらく男性は、アメリカ人の白人中年女性である自分からは聞きたくないだろう、って言ってて。信頼できる男性から聞きたいと思っているはずだから、この本は、もう自分の手を離れてどんどんみんなでシェアしてほしいみたいなことを言ってて。それは本当にそうなんだろうなと思いました。この本で目指さなきゃいけないのは、男性同士のコミュニケーションを活発化することだと思うんですけど。それはそれで難しいというか。

山下 僕、ゴールデン街のバーで働いていて、僕に人間関係なり恋愛なりを相談したいという男性は毎週のようにやってくるのですが、相談に乗ると後日「山下さん、〇〇できるようになりましたよ!」とかすごいキラキラした顔で報告してくるようになったり、これから仲良くなろうと思ってる女性を店に連れてきたりして。まぁ嬉しくはあるんですけど、それって僕に報告するために頑張ってるだけなんじゃないか、って心配になることも多々あります。

藤澤 それは過剰になるとナンパサークルみたくなっちゃいますしね。

山下 そうなんですよ。男性同士のコミュニケーションに女性を使ってるだけみたくなってしまうのが、難しいところですね。それでももし男性にアドバイスできることがあるとすれば、風俗のM性感に行くのはいいんじゃないかと思ってます。一時期、M性感で前立腺オーガズムを試すことにハマッた時があって。都内でも有名なM性感の女王様みたいな人を指名して、お尻を責めてもらって。まぁ、ある程度こっちも演技とかするわけですよ。で、事が終わって帰り際に、「すごいイッてたじゃ~ん」とか言われて。そうかな~?とか思って。別の店で別の女性を指名すると、最初の女性よりも気持ちよくしてもらっても、「まだまだイけてないよ」とか言われたりして、やっぱこの前の自分はイッてなかったんだ、とか思ったり。前立腺オーガズムって「イク」ということに解釈可能性があるんですよね。そのことに最初は驚きました。なぜなら自分が今まで経験してきた射精オーガズムは、解釈可能性がゼロだったからです。射精は射精したら全員が「イッた」と認識してそこに異論を挟む余地はないですよね。でも前立腺オーガズムはなにをもって「イッた」と認識するかが人や状況によって違うんです。女性のオーガズムは、射影オーガズムより前立腺オーガズムの方に近いですよね?

藤澤 たぶんそうだと思いますね。よく演技してるしてない問題ってありますけど、相手側の解釈の問題もそうだし、こっちも自分がオーガズムだと感じてるものと、色んな女の子を連れてきて、それぞれがオーガズムだと感じているものは突き合わせられないから、本当のところはなにがオーガズムかよくわからないというか。

山下 そういう解釈可能性があるのが、射精オーガズムとの違いだなって思って。あと『射精責任』でも指摘されてるように、射精オーガズムは妊娠と結びついているけど、前立腺オーガズムは妊娠と結びついていない点も女性のオーガズムに近い点です。そういう経験をしておくと、射精オーガズムしか知らない状態よりかは、女性が言ってることが腑に落ちるようになると思います。前立腺オーガズムは射精のような物理的な結果が伴わない分、精神的な部分に意識が向くようになるので、頭の中に余計な心配事とかなく集中できる環境がいかに大切か痛感しました。コンドームをつけずに妊娠や感染症のリスクを気にしなければならない状態は気持ちのよいセックスを阻害するものである、ということも体感的に理解できるようになりました。

藤澤 『射精責任』にも出てきますよね。不安が払拭されるから、パイプカットした時に性生活の満足度が上がるという。射精オーガズムに関しては、たぶん女性の側にも思い込みがあって。男性が勃たないとか、挿入できないとか、射精しなかったということは、気持ちよくなかったってことなのかなって思ってしまう女性はすごく多い。山下さんの新刊の中でも勃たない男性器を前に項垂れる女性が出てくるじゃないですか。男性が射精しなかったってことは気持ちよくなかったってことで自分に落ち度があるんじゃないかっていう、そういう社会の思い込みを内面化しているのはあると思います。

山下 そうですね。セックス≒射精オーガズム という価値観に囚われてるのは男性だけではないですよね。文化の問題だと思います。

藤澤 快楽とコミュニケーションについて話し合うとか共有する機会があまりに無いから、わかりやすいものにしがみついてしまうっていうのはありますよね。

山下 射精のやばいところは、わかりやすすぎるところですよね。24時間製造されるので基本的にいつでも出るし、白い液体が出るのでイッたことの視認性も抜群で、異論を挟む余地なくこれはオーガズムだと共通認識をつくることができる。セックス中に起こる変化で最もわかりやすいものだと思います。だから射精という結果に囚われてしまうのでしょうね。

藤澤 私自身も自分の価値観を見直す機会になったのが、最近ジャニーズとかの男性の性被害のニュースとかで当事者の証言を見たら、「被害に遭っている時でも射精することがある」って書いてあって。自分の心と身体っていうのは必ずしも結びついていないって書かれていて。それは言われてみればそうだよなって。必ずしも快楽に結びついていない射精ってのはあり得るのに、それを知らないというか。それは気をつけなきゃいけないんだなって思いました。

山下 そうですね。「女性はセックスの時に演技をする」って一般的に言われてますけど、風俗レポとかに、指名した女性が自分と相性がよくなかった際に「ぜんぜん興奮しなかったけど、前によかった女性を思い出してなんとか射精できました」とか書かれてることがある。それって男性も演技してるということなんですよね。役者の人が、なにかを思い出して頑張って泣くのと同じ。

藤澤 あぁ~っ、おばあちゃんが亡くなったの思い出して泣くみたいな。

山下 そうそう。演技してるけど、でも射精できたから最低限は満たしたみたいな。精神的には満足とはほど遠いのに射精したら満足してると自分でも思い込んでしまうところが、男性の不幸なところでもあるかもしれません。

藤澤 セックス≒射精オーガズム になってしまうことによって、セックスに含まれているもう少しソフトな部分というか、コミュニケーションの部分が軽視されているかもしれないですね。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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