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なぜ男は「ゴム無し無責任射精」にとらわれてしまうのか?【藤澤千春×山下素童 射精責任対談】

普段はフェミニズムを考えていないライトな層へ

藤澤千春さん
藤澤千春さん

山下 上司は想定読者がわからなかったけど、藤澤さんは想像できていたんですね。

藤澤 そうですね。今、ジェンダーとかフェミニズムの本の市場自体は大きくなったので、そこを常にウォッチしている読者層には刺さるだろうという目算はありました。

山下 実際に出してみても、想定していた読者層には刺さったなって感じですかね。

藤澤 この本を必要としているだろうなって人には、まずは届けられているかなってのはありますね。加えて普段はフェミニズムのこととかを毎日考えてるわけではないよっていう人たちにも届いたのは嬉しい驚きです。お母さんたちから「子どもに読ませます」とか「高校生の子に送りました」とかコメントがあるとビックリします。

山下 普段からフェミニズムを読んでいるようなコアな層よりも、もう少しライトな、あまり普段は本を読まない人たちにも届いたんですね。皆さん何きっかけで買うんですかね。

藤澤 やっぱりTwitterで見たって人が多いですね。だからAmazonの売上の割合が凄く多いですね。あと、地方の書店はジェンダーやフェミニズムの本は基本的に置かれづらいので、地方に住んでて読みたいって方もAmazonで購入してくれてます。

山下 Twitterでの広告力が大きいんですね。Twitterは力を入れてるんですか?

藤澤 そうですね。これは個人的な目標なんですけど「〇〇さんが書いた本だから買おう」っていうのがあるじゃないですか。この著者の新作だから買おうみたいな感覚で、この編集者の新作だから買おう、って思ってもらえるようにしたいっていうのはあって。

山下 なるほど。『射精責任』の反響で、藤澤さん編集の本だから買おうとか、藤澤さんの編集だから買わないようにしよう、って人は増えたんじゃないですかね。ある意味、編集者になったときに抱いていた「こういう編集者になろう」になりつつあるんじゃないですか。

藤澤 そうなったらありがたいですね。今はどの場所に行っても「射精責任の人!」、ひどい場合は「射精の人!」って言われる感じなので(笑)。こっからちゃんと点を線にしていかないと、って。素童さんもなにかそういうこと言われないですか。

山下 僕は「素人童貞の人だ!」って言われます。もう卒業したんですけど。

藤澤 あぁ~、素童さんの新刊を読んでちょっと思いました。「素童さんだから素人童貞だって思ったら、素人童貞じゃないじゃん!」って。

山下 それは最近の困りごとですね。ペンネームを付けた6年くらい前は素人童貞だったんですが。新刊のAmazonレビューでも「山下素童は変わってしまった」というレビューが付きました。

藤澤 この人なら安心できると思って手に取ったけど全然違うじゃん!ってなりますよね。もう俺たちの仲間じゃないぞ!って。

山下 (笑)。しかしこうして実際に対面で会うと藤澤さんってすごく温和で物腰の柔らかい方ですが、Twitterを見るとけっこう激しめですよね。Twitter人格みたいなものは作り上げてるんですか?

藤澤 作り上げてるというか、飛んでくるリプライが怖いから、怖い返ししちゃうみたいなのはありますね。そのイメージがあるのかなっていう。

山下 攻撃的なリプライを無視するって方法もあると思います。それを返すのは何か考えがあってでしょうか。

藤澤 私、むかし大森靖子さんの追っかけをやっていて。どこかで彼女が「攻撃的なリプライを送ってる人を無視するっていうのはけっこう残酷なことだ」って言ってたんですよね。ネット上で空中に向かって誰もいないと思ってするリプライほど空しいことはない、みたいな。彼女はアーティストだし人のアテンションを集めるのが仕事っていうのがあると思うんですけど、たとえそれが攻撃的なことであったとしても、ここには人間がいるぞって言ってあげたいみたいなことを言ってたんですよ。「私は全部応えてやる」って。それが印象に残っていました。

山下 いい話ですね。

藤澤 あと、『射精責任』の本当の当事者は、実際に望まない妊娠をして中絶した人たちだと思うんですよね。でもその人たちはスティグマが強かったり、罪悪感が強かったりするので、言い返せないじゃないですか。言い返せないままヤフコメとかで悪口を書かれてるみたいな。私は言い返せる立場にあるので、反応できる恵まれた立場だなと思っていて。

山下 なるほど。

藤澤 あとは、リプライをしてきた相手に言って聞かせようというよりかは、それを見てる周囲の人たちに見せたいというか。本当はモヤモヤしているけど反論が言葉にできないっていう人に、こういう風に言い返せばいいんだ、って思ってもらえるだけで、その人たちは気が楽になるんじゃないかと。

山下 すごい。『射精責任』の著者のブレアさんが言ってることを実践してる感がありますね。ブレアさんは本の中で、読者にも議論したり声を上げることを呼びかけている印象があります。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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