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「幸せになったら書けなくなる?」又吉直樹と50歳漫画家が本音で語った創作と幸せの関係性

結婚して幸せになったら、もう書けなくなるのか――。新刊が話題の作家・又吉直樹さん【『生きとるわ』(文藝春秋)】と、漫画家・中川学さん【『独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記』(集英社)】が、「創作」と「幸せ」の関係について本音で語り合った。欠落や失敗、人間の弱さに向き合いながら表現を続ける二人が、その葛藤の正体を見つめる。(全3回の3回目)
※「集英社オンライン」3月29日配信分より転載。
(取材・構成/斎藤岬 撮影/井上たろう)

全3回の3回目 #1 #2 #3

幸せになると、書けなくなるのか

――世の中には「創作者は幸せではないほうが面白い作品がつくれる」という考え方があると思います。結婚は幸せの象徴のようにとらえられがちですが、ものを描く/書く人間として、結婚して幸せになることを恐れるような感覚はお二人の中にありますか?

中川
僕はあるかもしれないです。自分の体験をそのまま作品にするエッセイ漫画家なので、平凡な日常だけになってしまうとなんにもネタがなくなってしまうんですよね。又吉さんの前で言うのもおこがましいですけど、物語って葛藤じゃないですか。

今の自分に何か欠けているものがあって、それを欲するがゆえに壁があって、乗り越えようとするから葛藤が生まれる。だから、現時点が満たされていて幸せだと、描くのはなかなか難しくなるのかなと思います。

又吉
そうか、エッセイ漫画というジャンルだと、自分がいろんな経験をしていかないとダメですもんね。でも飛ばしすぎても多分ダメなんですよね? 急にJリーグの入団テストを受けに行くとか、嘘すぎると「そんなはずないやろ」になっちゃいますもんね。

中川
それはそれで面白いです(笑)。創作の場合は、自分自身の体験や状況と作品の関係はまた違いますよね?

又吉
フィクションやったら、別に自分が幸せであってもダメな人間や大変な状況にある人間を描くことはできると思います。ただ、創作の意義そのものが若干薄まるような気はしますね。表現欲求みたいなものがどこから来てるのかを考えたら、やっぱり自分のしんどさとかから来てるような感じがしてて。

だからフィクションとはいえ、そういう恐れみたいなものはちょっとあるかもしれないです。完全に満たされたときに、どうなってしまうんやろう、って。まぁ結婚したところで完全に満たされることはないんでしょうけど、したことないからわからないですしね。「もし幸せになってしまったら」って部分はあると思います。

就職氷河期世代で「太宰治が好き」という共通点からどこか作風にも通じるものを感じる漫画家の中川さんと作家の又吉さん
就職氷河期世代で「太宰治が好き」という共通点からどこか作風にも通じるものを感じる漫画家の中川さんと作家の又吉さん

中川
やっぱりそれはあるんですね。

又吉
それと、中川さんがおっしゃったように、うまくいってる人は余裕が生まれるから悩みにくいし、葛藤しないですよね。正解を引き当てやすいというか。そうなると、ポジティブな良い状態、素敵な状態をわりと保てると思うんですよ。

でも、良くないことがあって焦ったときに迷いが生まれて、選択を誤ってドツボにハマってまた間違えて余裕がなくなって……って場面でどう振る舞うか、どう考えるかに人間の限界とか本質みたいなものが出てきやすいんじゃないかなと僕は思ってて。

まぁ人間って多面的な生き物やと思うんで一概には言えないですけど、そういうことを考えると「ちゃんとしすぎたらあかん」とか思ってしまうのかもしれないです。

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中川学

なかがわ・まなぶ/1976年生まれ、北海道出身。北海道教育大学釧路校教員養成課程(数学)卒業後、中学の数学教師の職に就くが、仕事がつらすぎて失踪・辞職。その後、2005年、札幌の風俗店でくも膜下出血を発症し、闘病生活を経て漫画家に。著書に『僕にはまだ友だちがいない』『くも漫。』『探さないでください』などがある。

又吉直樹

1980年大阪府生まれ。
99年に上京し吉本興業の養成所に入り、2000年にデビュー。03年に綾部祐二と「ピース」を結成。現在は執筆活動に加え、テレビやラジオ出演、YouTubeチャンネル『渦』での動画配信など多岐にわたって活躍中。著書に小説作品として最新作『生きとるわ』『火花』(芥川賞)『劇場』『人間』、エッセイ集として『第2図書係補佐』『東京百景』『月と散文』等。

公式X@matayoshi0

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