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「結婚どころか、明日が見えなかった」又吉直樹と50歳独身漫画家が語る、氷河期世代の孤独

作家の又吉直樹さんと漫画家の中川学さん。就職氷河期世代としてどこか似た感覚を共有する独身の二人。恋愛や結婚に踏み出せなかった理由をたどると、そこには経済的不安や“大人像”とのギャップ、そして人を好きだからこそ傷つくのが怖いという切実な本音があった。

又吉さんは小説『生きとるわ』(文藝春秋)、中川さんは漫画『独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記』(集英社)と新刊が話題の二人が孤独と結婚観をめぐって語り合う。(全3回の1回目)
※「集英社オンライン」3月28 日配信分より転載。

(取材・構成/斎藤岬 撮影/井上たろう)

全3回の1回目 #1 #2 #3

恋愛に踏み出せない理由

――まずは中川さんの新刊『独りで死ぬのはイヤだ』について、又吉さんの感想をお聞かせください。

又吉
すごくわかるところがいっぱいありましたね。特にそう感じたのは、女性と二人で出かけた帰り、相手のことをいいなと思ってるけど、「もう今日は早く帰りたい」ってなる場面で(笑)。

僕もわりと毎回そうなってしまうんですよ。緊張感を持ってごはんとか食べて、大きなミスをせずに終われたらもうやり遂げた感があって「早く一人になりたいな」って。同じ人と2回目に会うときに異常にパワーがいるっていう話もわかるし、思い当たる節がたくさんありました。これは僕と中川さんの世代が近いからなのか、それともそういう傾向にある人が一人でいる確率が高いのか、ちょっとまだわからないですけど。

中川 
すごく嬉しいです。好きな人相手でも「そろそろ帰りたいな」ってなるとか二度見知りするとか、僕が言いたかったことを又吉さんに共感していただいて。

又吉
好きでもそうなるんが、ややこしいところですよね。

中川 
そうなんですよね。好きだからこそというか。

又吉
好きな人に嫌われたくないですもんね。就職氷河期って言葉も出てきますよね?

中川 
出てきます。

アラフィフ独身で作風もどこか共通するものがある作家・又吉直樹(左)と漫画家・中川学
アラフィフ独身で作風もどこか共通するものがある作家・又吉直樹(左)と漫画家・中川学

又吉 
1980年生まれなんで僕もそうなんですけど、多少そういうのは影響してるんじゃないかなと思うんですよ。僕らが子どもの頃に観てたドラマとかで繰り広げられる恋愛って、それなりに良い店でごはん食べてバー行って、おしゃれな部屋で一人暮らしして、家族といえば一軒家に住んでペット飼って車があって……って感じやったじゃないですか。

そういうものを観て育ってきてるから、自分が20歳ぐらいになったとき、そこで描かれていた“大人”とは程遠く感じるんですよね。そんな状態で自分に自信を持つのは結構難しい。恋愛に関してもそこで何かひとつ壁があったんじゃないかな、っていうふうに作品を読みながら思いました。

中川 
わかります。テレビを観てると豊かな情報が流れてきて、子どものうちは「だんだん自分もこうなっていくのかな」と思うんですけど、大人になるのが近づくにつれて「なれなさそうだ」って予感がしてくるんですよね。で、いざ大人になってみるとやっぱり「あ、なれないんだ」って結果が待っていて。

又吉
「親戚の子どもにどうやってお年玉あげんねん」とか、思いますよね。

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新刊紹介

中川学

なかがわ・まなぶ/1976年生まれ、北海道出身。北海道教育大学釧路校教員養成課程(数学)卒業後、中学の数学教師の職に就くが、仕事がつらすぎて失踪・辞職。その後、2005年、札幌の風俗店でくも膜下出血を発症し、闘病生活を経て漫画家に。著書に『僕にはまだ友だちがいない』『くも漫。』『探さないでください』などがある。

又吉直樹

1980年大阪府生まれ。
99年に上京し吉本興業の養成所に入り、2000年にデビュー。03年に綾部祐二と「ピース」を結成。現在は執筆活動に加え、テレビやラジオ出演、YouTubeチャンネル『渦』での動画配信など多岐にわたって活躍中。著書に小説作品として最新作『生きとるわ』『火花』(芥川賞)『劇場』『人間』、エッセイ集として『第2図書係補佐』『東京百景』『月と散文』等。

公式X@matayoshi0

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