2023.5.31
物心ついた時には「運動が苦手な子」というポジションに……第1話 不憫だが愛されている
『まじめな会社員』で知られる漫画家・冬野梅子が、日照量の少ない半生を振り返り、地方と東京のリアルライフを綴るエッセイ。
第1話は、冬野さんが物心つくかつかないかの頃に体験した「体操教室」の思い出を綴ります。
(文・イラスト/冬野梅子)
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第1話 不憫だが愛されている
東北の田舎に生まれた。年の瀬の忙しい時期に、出産予定日より若干早く生まれたらしい。
田舎といっても、映画で見るような牧歌的な田園風景などではなく、車で10分圏内に大型スーパーや量販店が並び、しかしスターバックスみたいなお洒落なチェーン店はない、心躍るような気の利いた品物もない、生活に足るだけの便利で無難なものがすぐ買える、そういう田舎である。
まだ5歳前後の頃、私は赤ちゃん時代の写真を見ると泣き出す子供で、そういう我が子を見て両親は不思議に思いつつも面白がっていた。
私が1番泣ける写真は、なぜが桶のようなものに入れられ、布でぐるぐる巻きにされ、頭がモンブランの栗みたいに布の頂点に載っかっている写真だった。
だってあまりに不憫だ。なぜこんな滑稽な姿にされてしまったのか。
理由を聞くと、祖母が寒いだろうからとぐるぐる巻きにして、母は嫁という立場の手前何も言えず、そうしてこの写真が生まれたらしい。
そうした大人の事情に挟まれ、訳もわからず、でもちょっと腑に落ちない顔で写真に写る赤子の不憫さ、しかしなんだか周囲に大事にされているらしいという愛情も感じられる1枚だった。不憫だが愛されている。そうした複雑な気持ちから涙が出ていた。あるいは、生まれて初めて直面したノスタルジーというエモさを受け止めきれず、涙したのかもしれない。
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