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一発で12万円! バブル期の信じられないタクシーの使い方

タクシーチケットに記された『清水建設』

 静岡インターで東名高速を降り、静岡駅に向かう交通量の少ない県道を走りだした時点でまだ三時にはなっていない。

「この道を行って新幹線の高架をくぐったら国道1号線にでますから、そこを右に曲がってください。すぐ着きます」

 点けたルームランプの頼りなげな灯に顔を近づけるようにして何やら書類を読み始めた男は、暗記した台詞を棒読みするような口調で静岡駅までの道順を口にした。

 確かに「すぐ」だった。5分と経たないうちに国道1号線にでて、そこを右折したら2キロほど先が静岡駅で、磯辺は、言われたとおり駅前の松坂屋の角を左に曲がって2つ目の信号でクルマを止めている。

「ここでUターンして待ってもらえますか。15分か20分で戻ってきます」

 男はそう言うと駅前から続く広い道を小走りで渡り、一方通行の出口の横に建つビルへと入っていく。磯辺は、男から受け取ったタクシーチケットに記された『清水建設』をあらためて確認し、男が入った建物の何階かにこの有名な建設会社の営業所があるのだと理解した。

 東名高速を降りた時点で料金メーターは時間料金が発生しない「高速」から「賃走」に戻してある。80円の爾後メーターがあと三回パチンと上がれば料金メーターの表示は6万円を超す。青タン*1が切れる五時までに東京に戻れば12万円。今日の水揚げは都合15万円になる。高速道路を時速100キロ以上でぶっ飛ばし続けると、青タンが点いている間の料金メーターは1時間で4万円になるのだと磯辺健一が初めて知った日の出来事だった。

(以下、次回に続く)

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矢貫 隆

やぬき・たかし/ノンフィクション作家。1951年生まれ。龍谷大学経営学部卒業。
長距離トラック運転手、タクシードライバーなど多数の職業を経て、フリーライターに。
『救えたはずの生命─救命救急センターの10000時間』『通信簿はオール1』『自殺―生き残りの証言』『交通殺人』『クイールを育てた訓練士』『潜入ルポ 東京タクシー運転手』など著書多数。

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