よみタイ

大好きなディズニーランドでメガネが吹っ飛んで足の指が自分史上最高にシワシワになった話

閉園間際にはぐれてしまった友人と降りしきる雨……

いつも通り開園時から遊びまわり、慣れたコース取りで数々のアトラクションを満喫していた我々。夢中になっているうちに日が落ち、さっき夕飯を食べたばっかりだと思っていたのにもう閉園時間が近づいてきた。しかし閉園間際こそ人気アトラクションに待たずに乗れるチャンスだ。「あと2回ぐらいコースター系のやつ乗ろうぜ!」と私とHが意気込んでいると、もう一人のMが「おみやげ買わない?」と言ってきた。おみやげなんて帰りに適当なものを買えばいいじゃないかと思ったが、Mは何を買って帰るかじっくり検討したいのだという。

「じゃあ俺たちはスペースマウンテン乗ってくるわ!後でここら辺で待ち合わせよう!」と、私とHはMを一人残してアトラクションの入口へと向かった。

待ち時間もほぼなくスペースマウンテンに2回連続で乗ることができ、大満足で先ほどの場所まで戻ってきたが、Mの姿は見当たらない。Hと二人で手分けしてあたりをだいぶ探し回ったが、やはり見つからない。そもそも待ち合わせ場所もアバウトだったし、きっちりと集合時間を決めたわけでもない。当時は携帯電話もなく、一度はぐれてしまった相手を探すのは困難だった。一人で心細い気持ちになっているであろうMのことを想像すると、「おみやげなんて適当でいいっしょ!」などと言った自分がなんとも愚かに思えてくる。

Mを探して園内をさまよううちに閉園時間を過ぎ、辺りには私たち二人以外、人の姿も見えなくなった。数時間前までの喧騒が嘘のように静まり返ったディズニーランド。ようやくスタッフを見つけ、友人とはぐれてしまったことを説明すると、無線を使って各エリアに問い合わせたり、園内にアナウンスの音声を流したり、親切に対応してくれた。
しかしそれでもやはりMは見つからなかった。いつからか降り出した雨に、傘を持ってきていない私たちはすっかり濡れていた。スニーカーの中まで雨水が沁み込んで気持ち悪い。

「まだ見当たらないようですので、一度保護者の方へご連絡してもらえますか?」と、案内所まで誘導され、電話を借りてMの実家に現状を報告することになった。電話に出たMのお母さんに「M君とはぐれてしまって。まだ見つからなくて」と話すと、なぜか泣きそうになってくる。

しかし驚いたことに受話器からは「ん?帰って来てるよー!」とMのお母さんの明るい声が聞こえるではないか。「え! M、いるんですか?」「いるいる! 今かわるね!」と、電話口から今度はMの声がする。「あ、わりー! なかなか来ないから先帰ったわ」とのこと。

親切にしてくれたスタッフの方にお礼を言い、私とHは園の出口へと歩いた。しばらく黙って歩いていたが、途中からお互い笑いが込み上げてきて止まらなくなった。
「ははは! もう家だって!」「びっくりした! 帰ってんのかぁ、あはは」と。

びしょ濡れのスニーカーはズッシリと重く
びしょ濡れのスニーカーはズッシリと重く

遅い時間になってやっと自宅にたどり着き、雨で重たくなったスニーカーと靴下を脱いで足の指を見てみると、元の状態が思い出せないほどふやけてシワシワになっていて驚いた。

中学校を卒業してからは頻繁にディズニーランドに行くこともなくなり、後になって開園したディズニーシーにも、新しくできたアトラクションにも疎いまま大人になった。

そんな私でも、たまに「ディズニーランド行きたい」と思うことがある。そしてそういう時、閉園時間を過ぎて誰もいなくなったディズニーランドの静かな美しさと、かつてないほどシワシワになった自分の足の指とが、必ずセットで思い出される。

(了)

※本連載は、今回をもって終了となります。ご愛読、どうもありがとうございました。

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スズキナオ

1979年東京生まれ、大阪在住のフリーライター。
WEBサイト『デイリーポータルZ』『メシ通』などを中心に執筆中。テクノバンド「チミドロ」のメンバーで、大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。
著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』、パリッコとの共著に『酒の穴』、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』、『“よむ"お酒』など。
Twitter●@chimidoro

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