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鎌倉は、春もおいしい。鎌倉育ちの作家・甘糟りり子が愛する「お米」が主役の店

書籍『鎌倉だから、おいしい。』は、鎌倉で育ち、今なお住み続ける作家・甘糟りり子さんがこよなく愛する当地の美味たちを、春夏秋冬に分けて語るエッセイ集。
鎌倉育ちだから、鎌倉で今も暮らすからこそ知り得た、四季折々の味の魅力やおいしさがが詰まった1冊です。

春夏秋冬、鎌倉の魅力はそれぞれですが、やはり鎌倉といえば春が最旬。今回は特別に、本書『鎌倉だから、おいしい。』に収録された数々の名店の中でも、こよなく愛するあるお店について甘糟さんが書下ろしエッセイをご寄稿くださいました。書籍未収録の写真と共にお届けします。
読むだけで、鎌倉を訪れたような気分になれること、請け合いです。

(構成・文/よみタイ編集部)

お米という主役が堂々と存在する「喜心」は、朝昼夜のすべてがおいしい

日差しにつられ、買い物のついでに街を散歩した。急にやわらかくなった風に乗って、芽吹いたばかりの木や繁り始めた草の香りが運ばれてくる。生き生きとした草木の匂いには気力をもらう。
海と山に囲まれた鎌倉は、街のすぐそばに自然があって、ふとした瞬間に季節が肌で感じられる。この街で評判となるのもまた、季節に溶け込んでいる店が多い。

「喜心 鎌倉」は鎌倉駅西口から鎌倉山方面に歩いて7、8分。土鍋で炊いた白米を、煮えばな、ご飯、おこげと三段階で味わえるお店だ。開業は2018年。そのコンセプトを知った時、「なるほど!」と思った。目新しいこと、めずらしいものを声高に宣伝するニューオープンが多い中、基本中の基本である「お米」に焦点をあてているところにひかれた。

以前は朝食だけの営業だったけれど、昨年から、新しいスタッフが加わって昼と夜も別のスタイルで営業を始めた。
曜日によって昼は店の前が三浦野菜の販売所になり、朝穫れの野菜が手頃な価格で手に入る。平日の店内ではそれらの野菜を使った惣菜の販売もしている。用事を済ませた帰りにここに立ち寄って、買い物をすることが増えた。ランチタイムにはおばんざいのランチも用意されているから、買い物のつもりがそのままランチということもある。野菜を入手して料理するか、惣菜を買って食卓に並べるか、店でゆっくりランチを取るか、都合や気分で好きなように使える一軒だ。

土鍋で炊いた白米を、煮えばな、ご飯、おこげと三段階で
土鍋で炊いた白米を、煮えばな、ご飯、おこげと三段階で

夜は予約制。以前とはがらりと変わって、お酒を楽しめる空間になった。昼とは別の料理人が腕をふるい、本格的な日本料理が供される。お米に焦点をあてた喜心らしく、日本酒の種類も豊富である。先日は、食べ歩き好きな友人が東京から遊びにきた際に案内した。カウンターには「孤独のグルメ」のように一人で楽しんでいる常連も少なくない。
とにかくいろいろな顔があって、使い勝手がいい。どんな使い方をしても「喜心」らしさが失われないのは、やっぱり「お米」という主役が堂々と存在しているからだと思う。

喜心には、たっぷりと鎌倉の春がある。

2021年4月8日
甘糟りり子(鎌倉より)

お米に焦点を当てたお店らしく日本酒のラインナップが豊富
お米に焦点を当てたお店らしく日本酒のラインナップが豊富
夜の営業では、昼とはまた趣の異なる日本料理が味わえる
夜の営業では、昼とはまた趣の異なる日本料理が味わえる
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甘糟りり子

あまかす・りりこ●作家。1964年横浜生まれ。3歳から鎌倉在住。都市に生きる男女と彼らを取り巻く文化をリアルに写した小説やコラムに定評がある。近著の『産む、産まない、産めない』(講談社)は5刷に。そのほか『産まなくても、産めなくても』(講談社)など現代の女性が直面する岐路についての本や、鎌倉暮らしや家族のことを綴ったエッセイ『鎌倉の家』(河出書房新社)など好評発売中。

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