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パートナーへの暴力は関係維持行動? 進化心理学で考えるDV

人間は長い年月をかけて進化してきました。身体だけではなく、私たちの〈心〉も進化の産物です。
ではなぜ人間の心のネガティブな性質は、進化の過程で淘汰されることなく、今現在も私たちを苦しめるのでしょうか?
進化生物学研究者の小松正さんが、進化心理学の観点から〈心〉のダークサイドを考えていきます。

前回は、依存症について進化心理学的に考えました。
今回のテーマは「家庭内暴力(DV)」。そこにはどういった理由が考えられるのでしょうか。
イラスト/浅川りか
イラスト/浅川りか

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コロナ禍で急増したDV

「コロナ禍DV相談、過去最多」
このニュース見出しは、2021年5月21日の内閣府の発表に基づき、当時、報道各社が発信したものです(注1)。発表によると、2020年度のドメスティックバイオレンス(DV)相談件数の速報値は19万30件で、19年度の11万9276件から1.6倍に急増し、過去最多となりました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛や社会的ストレスの増加が要因になったものとみられると報道されました。新型コロナウイルス感染症の影響がこのようなところにも生じるのかと印象深く、記憶に残るニュースでした。

ドメスティックバイオレンスとは、広義では「家庭内での暴力や攻撃的行動」(家庭内暴力)を意味します。夫、妻、子供、祖父、祖母など、家族間で生じる暴力のことです。日本では1970年代に家庭内暴力という言葉が一般化し、社会的に注目されるようになりました。暴力を受けているのが児童の場合を児童虐待、配偶者間やパートナー間で暴力が生じている場合をパートナー間暴力と呼びます。近年、ドメスティックバイオレンスをパートナー間暴力という狭義の意味で用いることが多くなっています。

パートナー間暴力については、犯罪として立件されるケースと比較して、発生件数はかなり多いことが予想されます。パートナー間暴力が原因となった離婚や家庭崩壊は相当な数に上るでしょう。場合によっては、被害者が死亡するなど、重大な事態に至ることもあり、現代社会の深刻な問題の一つと言えます。今回は、こうしたパートナー間暴力について考えてみたいと思います。

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小松正

こまつ・ただし
1967年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻博士後期課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、言語交流研究所主任研究員を経て、2004 年に小松研究事務所を開設。大学や企業等と個人契約を結んで研究に従事する独立系研究者(個人事業主) として活動。専門は生態学、進化生物学、データサイエンス。
著書に『いじめは生存戦略だった!? ~進化生物学で読み解く生き物たちの不可解な行動の原理』『情報社会のソーシャルデザイン 情報社会学概論II』『社会はヒトの感情で進化する』などがある。

Twitter @Tadashi_Komatsu

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