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防御反応としての「うつ」──「心の強制終了」が生存に役立つ理由とは?

人間は長い年月をかけて進化してきました。身体だけではなく、私たちの〈心〉も進化の産物です。
ではなぜ人間の心のネガティブな性質は、進化の過程で淘汰されることなく、今現在も私たちを苦しめるのでしょうか?
進化生物学研究者の小松正さんが、進化心理学の観点から〈心〉のダークサイドを考えていきます。

初回のテーマは「うつ」。気分が落ち込む「うつ状態」には、どういった進化上の意味があるのでしょうか…?
イラスト/浅川りか
イラスト/浅川りか

100人に7人がうつ病になる

「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……」

これは『新世紀エヴァンゲリオン』のなかで、主人公の碇シンジがエヴァンゲリオン初号機に乗る決断をするときに発した有名な台詞です。シンジが自身の意欲を高めるべく、自分に言い聞かせる非常に印象的なシーンです。

『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズを制作した庵野秀明氏は、2015年4月の公式サイト上のプレスリリースで、2012年にうつ状態になったことを公表しています(注1)。庵野氏は「6年間、自分の魂を削って再びエヴァを作っていた事への、当然の報いでした」と述べています。話題作を作り続けることによる重圧の大きさを感じさせるコメントです。最新作『シン・エヴァンゲリオン』では、もともと精神が安定しているとはいいがたいシンジがいくつもの衝撃的な体験を経てうつ状態となった姿と周囲の助力などによってうつ状態から回復していくプロセスが描かれています。公認心理士の大美賀直子氏は専門家の立場から「うつ病からの回復シーンはとてもよく描かれている」「庵野監督ご自身のうつ状態からの回復の経験がふんだんに生かされているのだろうな、と思いました」と述べています(注2)

このように芸能人やスポーツ選手などの有名人がうつ状態などのメンタル不調を公表することは今日ではそれほどめずらしくありません。2021年6月には、テニスの大坂なおみ選手が自身のツイートで全仏オープンからの棄権と2018年からうつ状態を繰り返してきたことを公表し、アスリートのメンタルヘルスについて改めて注目が集まりました。「こころが強い」というイメージを持たれがちなアスリートですが、実際には現役のプロサッカー選手の38%がうつ状態や不安障害を経験しているという報告があります(注3)

私の知人の中にも、自身のうつ病やうつ状態の経験を告白してくれた人が何人かいます。神経質な性格でいかにもストレスをため込みそうに見える人もいれば、社交的で明るい性格に思える人もいて、さまざまです。こうした個人的経験からは、誰しもがうつ病やうつ状態に陥る可能性があるのではないかという考えが頭をよぎります。ここで、実際の調査結果を見てみましょう。

厚生労働省による平成14年度の調査では、日本で一生涯にうつ病を発症する人は100人に約7人、7%という結果です(注4)。これは決して小さくない数値です。自分の周囲にうつ病経験者がいても何ら不思議ではありません。

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小松正

こまつ・ただし
1967年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻博士後期課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、言語交流研究所主任研究員を経て、2004 年に小松研究事務所を開設。大学や企業等と個人契約を結んで研究に従事する独立系研究者(個人事業主) として活動。専門は生態学、進化生物学、データサイエンス。
著書に『いじめは生存戦略だった!? ~進化生物学で読み解く生き物たちの不可解な行動の原理』『情報社会のソーシャルデザイン 情報社会学概論II』『社会はヒトの感情で進化する』などがある。

Twitter @Tadashi_Komatsu

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