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サイコパスは性に奔放?遺伝子の影響は?進化心理学で考える反社会的人格

人間は長い年月をかけて進化してきました。身体だけではなく、私たちの〈心〉も進化の産物です。
ではなぜ人間の心のネガティブな性質は、進化の過程で淘汰されることなく、今現在も私たちを苦しめるのでしょうか?
進化生物学研究者の小松正さんが、進化心理学の観点から〈心〉のダークサイドを考えていきます。

前回、なぜ人間は「陰謀論」に陥りやすいのかを考察しました。
今回は「サイコパス」という存在を、進化心理学の観点から、その特徴と対応について小松さんが論じます。
イラスト/浅川りか
イラスト/浅川りか

罪悪感を持たず開き直る

日頃は好人物のように見えても、いざというときに冷酷な本性が現れる。場合によっては法を犯すことも厭わない。その被害をこうむる立場からすれば、非常に恐ろしい存在でしょう。近年、こうした反社会的人格の持ち主はサイコパスと呼ばれ、注目を集めています。

よく知られているサイコパスの特徴は冷酷であること、良心・共感性・罪悪感が欠如していることです。サイコパスは人口の1%程度存在していると言われており、サイコパスまたはそうした傾向のある人物と関わった経験を持つ人は少なくないと思われます。

私自身もかつて、サイコパス傾向の強い人物と関わったことがありました。私がアドバイザーを務めていた環境系市民団体のスタッフだったA氏は社交的で話も面白く、一見魅力的に見える人物でした。A氏をリーダーとしたチームでシンポジウムを企画したものの、開催中止となるトラブルがありました。A氏の自分勝手な言動によりチームが崩壊したためです。ほどなくして遠方に転居予定であったA氏は、実情を知る人たちと関係を断ち切り、経費などの金銭面の負担や関係各位への謝罪などの対応をすべて他のスタッフに押し付け、知らぬ存ぜぬを決め込むという開き直った行動に出ました。スタッフの中にはストレスで寝込む人もいました。当時は通信アプリが普及する以前だったこともあり、チーム崩壊の原因となったA氏の言動について、証拠となる記録は残っておらず、結局、A氏は一言の謝罪もしませんでした。むしろ、自分がもたらした事態について、「そんな深刻に考えなくてもいいじゃないか」と、どこか茶化すような発言さえしていました。

ここで注目すべき点は、第三者に提示できる証拠がない状況では、問題を起こした人物が何一つ償いをせずに逃亡したとしても、当人が罪悪感を持たずに開き直れば、その人物は何の不都合もなく普通の生活を続けていけるという現実です。通常、私たちは、自分が日ごろ関わる普通の人たちはみな罪悪感をもっており、簡単には悪事をできないだろうと考えています。サイコパスは、そうした常識を覆す存在です。

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小松正

こまつ・ただし
1967年北海道生まれ。北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻博士後期課程修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、言語交流研究所主任研究員を経て、2004 年に小松研究事務所を開設。大学や企業等と個人契約を結んで研究に従事する独立系研究者(個人事業主) として活動。専門は生態学、進化生物学、データサイエンス。
著書に『いじめは生存戦略だった!? ~進化生物学で読み解く生き物たちの不可解な行動の原理』『情報社会のソーシャルデザイン 情報社会学概論II』『社会はヒトの感情で進化する』などがある。

Twitter @Tadashi_Komatsu

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