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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場
「文豪」というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
いつも気難しそうな顔をしてて、メガネかけてヒゲなんか生やしてて、伊豆あたりの温泉旅館の一室で吸い殻山盛りの灰皿を脇目に、難しい小説なんか書いてる…。そんなイメージを持たれがちな彼らですが、実は現代人とたいして変わらないような、実に人間臭い面もたくさんあるのです。

さて、今回は、お酒という魔物に取り憑かれた坂口安吾と、一滴も飲めないのに酒の席で己れの趣味嗜好を全開にしていた川端康成、両極端なお酒の嗜み方をしていた文豪ふたりのお話です。

【文豪とお酒】泥酔して放り込まれた留置場で長男誕生を知った坂口安吾と、一滴も飲まずに踊る女性の脚を眺め続けた川端康成

坂口安吾
1906年10月20日 – 1955年2月17日
1931年『風博士』『黒谷村』で文壇に認められ『堕落論』で戦後混乱期の人びとの心をとらえ一躍流行作家となり、評論文、歴史小説、探偵小説など多岐にわたる分野で活躍した。太宰治、織田作之助らとともに無頼派と呼ばれる。

川端康成
1899年6月14日 – 1972年4月16日
東京大学国文科在学中に第六次「新思潮」に参加、菊池寛に認められる。卒業後、横光利一らと共に新感覚派と呼ばれ注目された。代表作は『伊豆の踊子』『雪国』『千羽鶴』等。ノーベル文学賞受賞。文化勲章受章。1972年にガス自殺。

泥酔して放り込まれた留置場で長男誕生を知った坂口安吾と、一滴も飲まずに踊る女性の脚を眺め続けた川端康成

文豪と呼ばれる方々の中にもお酒を愛した先生がたくさんいらっしゃいました。井伏鱒二先生は夕方になると界隈の文士仲間を集めて、まずは自宅で一杯、その後、荻窪から阿佐ヶ谷、そして新宿の酒場をハシゴしながら朝まで飲み歩くのが常だったようで、その道程は井伏ロードと呼ばれていたという逸話が残っています。大酒を飲んだ翌日は濡れタオルで頭を冷やしては一行書き、また冷やしては一行書き、という具合だったそうですが、井伏先生なんかはかわいい方で、中には酒に溺れ、魂を削るように、文字通り酒乱と言わんばかりに酒を飲んだ作家もいます。

坂口安吾は「人間は生き、人間は堕ちる」と書いた『堕落論』によって戦後文壇の寵児となり、無頼派の旗手と呼ばれた作家でした。世の中の欺瞞や馴れ合い、伝統や束縛、偉そうに振舞う大御所作家を嫌い、鋭い視点で世相をぶった切っていく。そんな安吾には次から次へと執筆依頼が舞い込みます。まさに寝る暇もないとはこのこと。安吾は当時まだ合法だった覚せい剤――ヒロポンを常用するようになり、その作用で眠れなくなると今度は大量の睡眠薬とお酒を煽ります。

「いざ仕事が終って眠りたいという時に、眠ることができない。眠るためには酒を飲む必要があり、ヒロポンの効果を消して眠るまでには多量の酒が必要で、ウイスキーを一本半か二本飲む必要がある。原稿料がウイスキーで消えてなくなり足がでる」という滅茶苦茶な生活の中、立派なアル中になってしまう安吾。喧嘩や警察沙汰は日常茶飯事といったはちゃめちゃな生活で身体はボロボロ。

そんな安吾、長男が産まれたと知ったのも留置場から出た日でした。文藝春秋新社(後の文藝春秋)で安吾と檀一雄とで川中島の戦いの地を巡るという企画が立てられ、安吾は松本の平島温泉ホテルに逗留するのですが、そこで大暴れしてしまい、とうとう留置場に放り込まれてしまったのです。
そして翌日、釈放された時に長男誕生というオメデタニュースが舞い込んだのでした。

ヒロポンにウイスキーに睡眠薬……日々大荒れの安吾先生(画像提供/日本近代文学館)
ヒロポンにウイスキーに睡眠薬……日々大荒れの安吾先生(画像提供/日本近代文学館)

今度こそ酒も薬も断とうと誓う安吾先生、47歳

「まったく私には子供が生れたということが今でも奇蹟的に思うような気持が強い。オレにもこんな人なみのことが……」と親になる自覚が芽生えた安吾はそれまでの生活を省み、子供の行く末を案じて「貯金するか……」などと真っ当なことを言い出しますが、その二週間後にはカフェ・パリスという店でまたもや大暴れし、やっぱり留置場に入れられています。

この時、安吾先生すでに47歳です。
いくら中学時代に「余は偉大なる落伍者となつていつの日か歴史の中によみがへるであらう」と机に彫ったとはいえ、有言実行が過ぎる、無頼派・坂口安吾なのでした。

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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