よみタイ

ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場
「文豪」というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
いつも気難しそうな顔をしてて、メガネかけてヒゲなんか生やしてて、伊豆あたりの温泉旅館の一室で吸い殻山盛りの灰皿を脇目に、難しい小説なんか書いてる…。そんなイメージを持たれがちな彼らですが、実は現代人とたいして変わらないような、実に人間臭い面もたくさんあるのです。

さて、今回は奇人変人ぞろいの文豪の中でも、名・珍エピソードには事欠かない太宰のお酒にまつわる驚きのエピソード。同じく無頼派の檀先生もいっしょにまったく二人とも……。

【文豪と泥酔】酔っぱらった勢いで太宰とガス自殺をしようとしたあげく、その太宰を見捨ててトンズラした檀一雄

酔っぱらった勢いで太宰とガス自殺をしようとしたあげく、その太宰を見捨ててトンズラした檀一雄

太宰治(だざい・おさむ)
1909年6月19日 – 1948年6月13日
父は貴院議員、兄は衆院議員という津軽有数の大地主の家に生まれ、東大入学後は井伏鱒二に師事し小説家を目指す。戦後は坂口安吾、織田作之助らと共に無頼派と呼ばれた。『斜陽』などで流行作家となるが、遺稿「グッド・バイ」を残し山崎富栄と玉川上水で入水。主な作品に『走れメロス』『津軽』『お伽草紙』『人間失格』など。

檀一雄(だん・かずお)
1912年2月3日 – 1976年1月2日
東京大学経済学部在学中に発表した『此家の性格』で文壇に登場。佐藤春夫に師事し
『真説石川五右衛門』で直木賞受賞。20年以上にわたり書き継がれライフワークとなった遺作『火宅の人』は日本文学大賞受賞。在学中に知り合った太宰治とは太宰が亡くなるまで交流が続いた。

文豪と呼ばれる人たちにとって酒は切っても切れない存在である、とそのようなイメージを持たれる人は多いかもしれません。実際は揃いも揃って皆酒好きという訳でもなく、酒を嗜まない作家先生も多くいらっしゃいました。それでもやはり文豪といえば酒を愛し、酒に溺れ、執筆の糧とした、というようなイメージが根強いのは、今なお語り継がれる、何人かの強烈な酒乱伝説のせいかもしれません。

酒と文学、といえば思い起こすのはやはり、太宰治や坂口安吾など、戦後無頼派と言われた作家たちでしょうか。

太宰は随筆『酒ぎらい』に「酒を呑むと、気持を、ごまかすことができて、でたらめ言っても、そんなに内心、反省しなくなって、とても助かる。」と書いており、さらには「酔がさめると、後悔もひどい。土にまろび、大声で、わあっと、わめき叫びたい思いである。胸が、どきんどきんと騒ぎ立ち、いても立っても居られぬのだ。なんとも言えず侘しいのである。死にたく思う」と続けています。

酔いが醒めた時に「死にたく思う」ほどお酒での失敗が多かったのでしょうか。「最後の無頼派」と言われた檀一雄は、盟友太宰治との酒の思い出を『小説 太宰治』に書き残しています。

困ったちゃんなエピソードの宝庫だけど、文豪ファンの間でも抜群の人気を誇る太宰(画像提供/日本近代文学館)
困ったちゃんなエピソードの宝庫だけど、文豪ファンの間でも抜群の人気を誇る太宰(画像提供/日本近代文学館)

ある寒い晩、どこかでしこたま飲んだ後、帰りに一升瓶を買ってアパートで飲み直そうということになった檀一雄と太宰治。もうすでに立ってもいられない程に酔っぱらっている二人は、アパートで飲み直しながら「自殺するならどんな方法が簡単か」という、なんとも無頼派すぎるお題について延々議論し始めます。

「わけはない。飛び込みさえすればいいんだ。井の頭の池に。今頃は氷が張ってるね」と言う太宰。
「あそこじゃ駄目だろう? 死ねないよ」と檀一雄が言う。
「いや、いい。確実だ」「駄目だ」「いや、いい」と、白熱する議論。
「じゃ、行って見るか? 檀」と言い出す太宰。

檀はその時「太宰の顔が鬼相を帯びたことを覚えている」と言います。
立ち上がろうとしてよろめく太宰。完全に泥酔状態です。

「止めよう。もうここに転がっていた方がよっぽどいい」と檀が言うと「じゃ、瓦斯ガスか?」という。入水がダメならガスでやろうと言うわけです。太宰の新しい提案に対して、止めてくれるのかと思いきや「うむ」と頷く檀一雄。いやいや、そこはしっかり止めてくれないと。「うむ」じゃないんですよ檀先生。すでに思考能力がまったく機能していない二人、ガス心中を実行しようと盛り上がります。押し入れから引っ張り出して部屋中に散乱させた布団に潜り込み「テラテラ光る顔」を半分出す太宰。

「灯を消せ」
「よし」
「開けろよ、口を」
「うむ」

手探りでガス管の口を開く檀。ガスが部屋中に充満していく中、やがて二人は眠ってしまいます。

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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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