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ブンゴウ泣きたい夜しかない。~文豪たちのなんだかおかしい人生劇場
「文豪」というと皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
いつも気難しそうな顔をしてて、メガネかけてヒゲなんか生やしてて、伊豆あたりの温泉旅館の一室で吸い殻山盛りの灰皿を脇目に、難しい小説なんか書いてる…。そんなイメージを持たれがちな彼らですが、実は現代人とたいして変わらないような、実に人間臭い面もたくさんあるのです。

今回ご紹介するのは数々の女性遍歴も有名な太宰が児童文学家の石井桃子さんに抱いた思いの狭間で、ちょっとオタオタしてしまう井伏鱒二先生の可愛いお姿です。

【文豪と仲人】太宰治が淡い恋心を抱いた石井桃子と、仲を取り持つならはっきりしてほしい井伏鱒二のお話

太宰治が淡い恋心を抱いた石井桃子と、仲を取り持つならしっかりしてほしい井伏鱒二のお話

太宰治(だざい・おさむ)
1909年6月19日 – 1948年6月13日
父は貴院議員、兄は衆院議員という津軽有数の大地主の家に生まれ、東大入学後は井伏鱒二に師事し小説家を目指す。戦後は坂口安吾、織田作之助らと共に無頼派と呼ばれた。『斜陽』などで流行作家となるが、遺稿「グッド・バイ」を残し山崎富栄と玉川上水で入水。主な作品に『走れメロス』『津軽』『お伽草紙』『人間失格』など。

石井桃子(いしい・ももこ)
1907年3月10日 – 2008年4月2日
児童文学作家、翻訳家、編集者。日本女子大学英文科在学中から菊池寛のもとで翻訳などの仕事に従事し、卒業後は文藝春秋社、新潮社、岩波書店を経て、51年には長編童話『ノンちゃん雲に乗る』で第1回文部大臣賞を受賞。自宅に私設図書館「かつら文庫」を開設し、その後の家庭文庫普及に大きな影響を与えた。

井伏鱒二(いぶせ・ますじ)
1898年2月15日 – 1993年7月10日
早稲田大学仏文科中退後、同人雑誌への寄稿や出版社勤務などの長い下積みを経て『山椒魚』 で文壇に認められる。1937年には『ジヨン万次郎漂流記』で直木賞を受賞。独特のユーモアあふれる文体で随筆や小説、詩集や児童文学など多数の作品を残した。

太宰治の女性関係といえば皆さん誰を思い浮かべるでしょうか。
やはり妻である美知子夫人を挙げる方が多いでしょうか。それとも、共に玉川上水に身を投げた山崎富栄さんでしょうか。最初の奥さんである初代さんや、『斜陽』執筆のきっかけとなった太田静子さんを挙げる方もいらっしゃるかもしれません。

太宰治が関わった女性は多くいましたが、その中でも僕が思い浮かべるのは石井桃子さんという方です。関わったといっても太宰治と石井桃子さんは5、6回会っただけで、友人以上の関係ではなかったのですが、太宰治の師匠である井伏鱒二が書いた『をんなごころ』によれば、太宰には桃子さんに対する淡い恋心があったように読み取れます。

自殺未遂や薬物中毒にもなり、典型的な破滅型の作家であるが傑作もまた多く残した太宰(写真提供/日本近代文学館 撮影/渡辺好章))
自殺未遂や薬物中毒にもなり、典型的な破滅型の作家であるが傑作もまた多く残した太宰(写真提供/日本近代文学館 撮影/渡辺好章))

石井桃子さんは、戦前は菊池寛のもと文藝春秋社に編集者として在籍、その後は新潮社や岩波少年文庫と活躍の場を変えつつも、『クマのプーさん』や『ピーターラビット』の翻訳に携わり、『星の王子さま』や『いやいやえん』の出版にも大きく関わるなど、児童文学の分野で活躍された方でした。
そして自身が書いた『ノンちゃん雲に乗る』はベストセラーとなり、1958年に東京荻窪の自宅に開いた私設図書館「かつら文庫」にたくさんの児童書を集め、近隣の子供たちが文学と触れ合う機会を作りました。

太宰治と石井桃子さんは井伏鱒二の家で出会ったといいます。
桃子さんが井伏先生のお宅に出向いた際に「きちっと着物を着て、井伏さんの前に礼儀ただしく」座っている青年がいたといいます。それが太宰治でした。
桃子さんの太宰への第一印象は「ちょっとつかみどころもないほどやわらかい感じの、 私には少年のように若々しく思えた人」だそうです。

一方、井伏鱒二は当時の太宰について「それから後は当分の間、太宰は桃子さんにあこがれるようになっていた」と書いております。実は桃子さんはこの出会いより前から太宰のことを知っていました。桃子さんは以前に読んだイギリスの本に載っていたある逸話に大変感銘を受けたことがあったのですが、のちにその逸話をもとに太宰が創作したのが『走れメロス』だったのです。桃子さんの中には太宰に対して尊敬の念があったのかもしれません。
 

1953年頃の石井桃子(写真提供/(公財)東京子ども図書館)
1953年頃の石井桃子(写真提供/(公財)東京子ども図書館)
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進士素丸

しんじ・すまる●1976年2月生まれ。ライター・文筆家。「文豪どうかしてる逸話集」(KADOKAWA)著者。文豪や歴史にまつわるツイートも話題に。
雑誌・ウェブ媒体などに寄稿しつつ、映像制作やデザインなども手掛ける。

Twitter●@shinjisumaru

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