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戦国メイド喫茶に現れた青い目のサムライ

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。 前回は、戦国メイドカフェにおける〈ガチ恋〉のお話でした。 今回はメイドカフェの常連になったスイス人留学生についてです!
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

秋葉原に来航する外国人

 昨今は、コロナ禍もあって世界を行き来するのが難しい時代になってしまった。秋葉原といえば外国人観光客が多く訪れる土地だったが、それも最近は少し寂しいものになっている。

 思えば、2010年代の秋葉原といえば、数多くの国から来た人たちに溢れていた。そうした人たちの秋葉原の楽しみ方は多種多様だが、やはりメイド喫茶を訪れる人は多い。しかもその店が「ニンジャ! サムライ!」と謳っていれば、なおさら足が向くこともあるだろう。

 つまり、ワシが通っていた戦国メイド喫茶にも外国から来たお客さんは多くいたということ。

 普通に戦国メイド喫茶に常駐していたワシは、物珍しさで来た外国人のお客さんを多く見てきた。メイドさんだって全員が英語に堪能というわけではないが、とにかく楽しませたい一心で話しかけ、料理の感想を聞き、歌って踊ってみせる。客であるワシだって、外国の人が隣の席になれば話すこともある。なけなしの英語力や翻訳アプリ、あとはボディランゲージを使って、なんとかコミュニケーションを成立させてきた。それくらい戦国メイド喫茶では、外国人観光客がいるのは日常だった。

 だから、最初は彼もそうした観光客の一人なのだと思っていた。

「最近、よく見るね」

 ワシは戦国メイド喫茶の一角で笑顔を浮かべている、外国人らしき青年に話しかける。

「あ、大丈夫。日本語わかるよ」

 ばっちり日本語は通じていた。童顔の青年は流暢な日本語を使って自己紹介をしてくれた。

「ルカだよ。スイスから来た留学生」

 話を聞けば、まず六カ国語を喋れるらしく、さらに凄い感じのところの大学に留学に来ていて、卒業後はスイスの銀行に務める予定だという。日本人にとっては『ゴルゴ13』でおなじみだが、これを言うと怒られるかもしれないから言わなかった。

 ともかく、このルカという青年は、どういうわけか戦国メイド喫茶に迷い込んできたエリートなのだ。しかし、そんな肩書きなど吹き飛ばす男がこちらにもいる。

「おう! お前ぇ、ルカってのか、よろしくな!」

 いつもの大声でからんできた男、前々回に登場した我が友人のたくみんである。

「たくみん、聞いてくれ、このルカは凄い。スイスから来た留学生だ」

「へっ、それがどうした、オレぁ江戸川区から来てるぜ!」

 ルカは意味もわからず、といった表情だが、とにかく楽しい雰囲気だけは伝わったのだろう。彼もワシらと仲良くなり、そのすぐ後には一緒に夕飯を食べに行くことになる。

「ところでルカ、推しっているのか?」

 ふと湧いた疑問だった。今やルカは戦国メイド喫茶の常連だが、最初は興味本位に遊びに来ただけのはず。それがどうして、ここまで彼を惹きつけるのか。戦国とか好きなのかな。

「あー、りかりん。可愛いね」

 ほう、と頷く。りかりんというのは、森蘭丸の娘である森りかりんだ。本来は戦国メイド喫茶の系列店のメイドさんだったが、そちらが閉店したので助っ人よろしく移籍してきた人物だ。大人の魅力と可愛さを併せ持つメイドさんで、グラビアモデルかくやのプロポーションに気さくな性格で人気がある。あと本業はお笑い芸人という異色のメイドさんだ。

「なるほど、ルカのお眼鏡にかなうわけだ」

「りかりんのおっぱいスゲェもんな! やっぱおっぱいだよなー!!」

 たくみんによる情緒のない感想だったが、ルカは楽しそうに笑っていた。ちなみに、戦国メイド喫茶ではない別のメイド喫茶にも一緒に行っていたが、そこでのルカの推しも胸が大きい子だった気がする。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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