よみタイ

柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になる
マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は柴田さんの「戦国メイドカフェ」での初陣が語られました。
今回は、柴田さんにできた初めての“推し”との馴れ初めです!

柴田勝家が思わずケチャを送った、前田慶次の娘のあっぱれな歌唱力とは?

「ペンネーム・柴田勝家でいいんじゃね」

 ワシが小説家になる直前の平成26年(2014年)の秋。メイド喫茶、それも戦国メイド喫茶なる店に足しげく通うようになっていた。

 あいも変わらず大学の友人たちと遊んでいる日々だったが、その裏では「ペンネーム・柴田勝家」のまま新人賞に送りつけた小説が二次審査を突破していた。ここまで残れば結構とも思っていたが、ある日、起き抜けに早川書房から連絡があり「選考の結果、大賞に選ばれました」とのこと。ちなみに、その際に「なのですが、あのペンネームはさすがに……」と言われた。

 その後の経緯は簡単にまとめよう。アドバイスに従い、一旦はペンネームを本名にするも、いざ早川書房の編集部に行った際に転機は訪れる。ワシの容姿を見た塩澤編集長(当時)をはじめ、会社の偉い人たちも「柴田勝家でいいんじゃね」という空気となり、晴れて柴田勝家となったのだった。

 元服のようなものである。

 この一件から転がるように事態は動いていった。同年の11月にデビュー作である『ニルヤの島』が刊行され、ハヤカワSFコンテストの贈賞式も終えた。こうしてワシは小説家となったのだが、その際の模様が小さく話題になり、これがフジテレビのどこかへ伝わったらしい。

「柴田さんにテレビ出演の依頼があるんですが」

 初代担当のIさんからもたらされた報告にワシは面食らった。

「マジっすか」

「アウト×デラックスです」

 その番組のことは知っている。熱心に見ていた訳ではないが、常々ヤバい人たちが登場することで話題になっていた。そんな場所に常識人のワシが出られることが信じられなかった。平穏だったはずの人生を、小説家になったという一点だけでブチ抜いたのだ。

「へへ、ワシもでっかくなったもんだなぁ」

 出演依頼を快諾したワシは、早川書房に集まったスタッフの人たちと最初の打ち合わせをした。しかし、ワシは別にアウトな話題なんて何もない。実に些細な人間である。どこを切り取れば面白くなるか、歴戦のテレビマンたちも頭を悩ませたことだろう。

「柴田さんは、何か趣味とかありますか?」

「メイド喫茶によく行きます」

「じゃあ、その模様を取材しましょう」

 すんなり決まってしまった。

前田慶次の娘・きゃりんちゃん

 翌年、平成27年(2015年)の1月某日。アウト×デラックスの収録日も決まったところで、ワシは普通に戦国メイド喫茶へ足を運んでいた。ここで収録があることは店長とかは知っているだろうが、メイドさんたちは未だに知らない。

「あはは、また来てくれてるー」

 ここで何気なく、ワシに話しかけてくれたメイドさんがいる。

 名前は前田きゃりんちゃん。新人のようで新人でない不思議なメイドさんだ。あと前田慶次の娘だという。利家でなく慶次だというのが渋いが、これは近くで見ていると良くわかる。

「あ、待って! コラー! そこ騒ぐなー!」

 きゃりんちゃんはワシが挨拶を返すのも待たず、奥の席ではしゃいでいた常連さんたちを叱りに行く。しかも、そこで一言二言話すと、今度はまた別の席で暇そうにしている人に話しかけに行っていた。

 待って、と言われたままのワシは待ち続けている。

「きゃりんちゃんって、いつもあんな感じなのか?」

 たまたま話していたメイドさんに確認してみる。

「うん。きゃりんさんって人と話すの得意だからね~」

 ふむ、と頷いてみる。

 よくよく観察してみれば、きゃりんちゃんはとにかく会話が早いし、仕事も早いし、動きも早い。といって忙しないわけでもなく、全ての動きが自然に行われている。多分、次に自分は何をすべきか、を悩まないのだ。

 つまりは「自由」で、それは前田慶次の娘に相応しかろうと思った。

「お待たせ! ごめんね、うるさかったでしょ?」

 向かいの椅子に手を乗せて、ワシのところへ帰ってきたきゃりんちゃんが笑っている。その姿はなんというか、ワシにとっては輝いて見えた。

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

関連記事

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

週間ランキング 今読まれているホットな記事