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戦国メイド喫茶に現れた青い目のサムライ

遅れてやってきた青春

 その後、ルカはワシらとよく遊ぶようになった。半年か1年、それくらいの時間を一緒に過ごした。戦国メイド喫茶で出会えば、そのまま夕飯を共にする。それが遅れてやってきた青春のように思えた。場所は秋葉原で、歳も離れていて、国籍も違うが。

「ルカ! おぶれ!」

 ある日の帰り、秋葉原のUDXのそばでたくみんがルカに飛びついた。ルカは笑いながら、それを物ともせず、甲斐甲斐しく背負って歩いていた。

「ほう、凄いな、力持ちだな」

「軍隊にいたからね」

「ああ、スイスだから。国民皆兵というやつか」

 たくみんを背負いながらワシの横を歩くルカは、優しげな男に見えるが、なかなかどうして屈強な男である。

「向こうだと、少し偉かったよ。階級、日本語だと知らないけど」

 そう伝えられ、なんだか気になったのでスマホで調べる。スイス軍の階級は少しわかりづらかったが、どうやら少尉くらいの立場らしかった。

「部下は200人いるよ」

「ヤバいじゃん、たくみん、ルカに逆らうなよ」

「うるせぇ! 負けねぇ!」

 そう言って、たくみんはルカの背中をバンバン叩いていた。

「ルカ! 六ヵ国語話せるからって調子乗んなよ! オレは日本語が喋れるんだぞ! アキバだとオレの方が偉ぇ!」

「はは、わかったよ」

 ルカは笑って許してくれる、なんとも心の広い男だ。ルカの背中でたくみんはわめきつつ、ワシらは夜の秋葉原を歩いていく。この光景だって青春の一ページに見える。

 しかし、別れの時は迫っていたのだ。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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