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ライジング!
今や、当たり前にスマホで漫画を読む時代。
才能ある作家と、新しい読者をつなぐために――編集者は新たな挑戦に乗り出す!
とある出版社の漫画アプリ開発に秘められた、汗と涙と笑い(と美食)を描くお仕事小説、開幕!

前回、アプリに仕組まれた“自爆装置”を回避し、無事復旧したマンガホープ。しかし、忘れた頃にやってくるのが……そう、お金の話だ!

小説「ライジング!」は『週刊ヤングジャンプ』公式noteでも絶賛連載中です。

※この作品はフィクションです。作中に登場する個人名・団体名等は、すべて架空のものです。

第30回 結果がどうあれ、ギャラは支払え!の世知辛さ

「ライジング!」 第30回

 きっかけは小柴にかかって来た一本の電話だった。
「小柴編集長、ナノ&ナノの佐藤さんという方から電話です」
 新人編集部員の言葉に小柴は「佐藤?」と首をかしげた。聞き覚えのない名前だが、どこかで名刺を交換していたのだろうか。
 訝りながらも受話器を上げると、どこか無機質な声が聞こえてきた。
「ナノ&ナノ法務部の佐藤です。今回はお支払いの件でお電話差し上げました」
「支払い……ですか」
「はい。御社からのご送金が遅れているかと思いまして」
 佐藤の言葉を聞いた小柴の脳内に緊急警報が流れた。この電話は録音されている可能性もある。下手なことは一切言えない。警戒心を最大にして、小柴は受話器を握り直した。

「えっ! 開発費の全額支払いってどういうことですか!?」
 小柴の説明を受け、松田が素っ頓狂な声をあげた。
 佐藤とのやり取りを終え、小柴はとりあえず野島と松田には説明しておこうと、急きょ会議室に二人を集めたのだ。
 野島が眉間をもみながら言う。
「菅さんは何て言ってるんですか?」
「さっき電話したら、法務部を説得できずすいません……って謝り倒してたね。彼としてはウチからお金を取るつもりはなかったみたいなんだけど、個人の考えは組織の論理の前では吹き飛んじゃうからね」
「でも、あんなことがあったんですよ!?」
 興奮冷めやらない松田を、野島がなだめる。
「そりゃそうだ。でも現場にいた人間と、契約書だけ見ている人間とでは、意見もだいぶちがってくる」
「そんな……。ナノ&ナノがウチから開発費を受け取るってことは、そこからEセサミに支払いが行われるってことですよ」
「そうだね」
 小柴はそう言って背もたれに体重を預けた。
「ナノ&ナノとしては、Eセサミと争って支払いを無しにするより、ウチと争って開発費を取った方が良いと判断したんだろうね。ローンチ日にアプリを納品したから、契約上は取引成立の条件は満たしてるし」
 会議室の机の上には、契約書のコピーがあった。松田はその契約書を引っ掴んだ。
「ちょっと借ります!」
「おい、待てタイヨー!」
 野島の制止する声を振り切って、松田は照鋭社の法務部へ急いだ。あんな不完全なものを納品してお金を全額払えは乱暴すぎる。百歩譲って、ナノ&ナノへの支払いはいい。でもEセサミへお金が渡るのは許せなかった。

「失礼します! ちょっと質問がありまして!」
 法務部へ行き、静かに仕事をしていた男性社員をつかまえて、松田は契約書のコピーを渡した。そして全ての経緯を簡単に説明してから、男性社員の意見を聞いた。
「なるほど……ね」
 松田のあまりの勢いに最初は面食らっていた法務部の社員も、契約書を渡されると大人しくそれに目を通し始めていた。
「やっぱりここか」
 ほどなく小柴と野島がやって来ると、それを待っていたわけではないだろうが、契約書から顔を上げた法務部の社員がメガネをクイッと上げた。
「話は分かりました。結論から申し上げます」
 さほどずり落ちていないのに、再びメガネを上げて、男性社員は口を開いた。

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志田用太朗

京都府出身。小説家。
第16回エンターブレインえんため大賞優秀賞を獲得して、2015年にデビュー。
集英社みらい文庫からは『僕らのはちゃめちゃ課外授業 一発逆転お宝バトル』シリーズなどが好評発売中。

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