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南和行「離婚さんいらっしゃい」

お母さんは結婚の続け方を教えてくれなかった

【弁護士とホク子】

(弁護士)
それは本当につらかったですね。

(ホク子)
私は離婚できるのでしょうか?

(弁護士)
離婚できるかどうか・・・・・・
で言うと、旦那さんが「離婚してもいい」
と言ってくれれば、
どんな理由でも離婚届は出せますが。

(ホク子)
夫は離婚してくれるのでしょうか?

(弁護士)
ちょっと待ってください、
旦那さんにまだ離婚の話はしていないんですよね?

(ホク子)
ええ。していません。

(弁護士)
ホク子さんは離婚を決めているのですか?

(ホク子)
母が・・・・・・
母が「やり直して」って言うということは、
母は離婚したほうがいいって、
思っているということなんです。

(弁護士)
お母さんはお母さんですから。
それに離婚はあくまでも夫婦の問題ですよ。

(ホク子)
わかっているんです。
頭ではわかっているんですが、
いつもの世間体を気にしている母が、
「やり直していい」って言うのは、
よっぽどのことです。

(弁護士)
お母さんは「離婚」って、
言ったわけじゃないですよね。

(ホク子)
でも、母はずっと私に、
子供の頃から「女の子だから、お嫁さんに行くことを考えて」とばっかり言って、
私はそれに反発して・・・・・・

(弁護士)
お母さんが反対していた結婚だったのですか?

(ホク子)
そういうわけではないですが、
母が「やり直し」って言うのなら、
そうしなきゃまた、
「アナタにはガッカリした」
って言われる気がして、
母の言うとおりにしてガッカリさえさせなければ・・・・・・

(弁護士)
ホク子さんの人生ですよ。

(ホク子)
でも平凡な人生なんだから、
わざわざ母をガッカリさせなくても。

(弁護士)
ホク子さん、落ち着いてください。
離婚は、夫婦で決めることなんです。
旦那さんには、話していないのでしょう?

(ホク子)
はい。

(弁護士)
ホク子さんは、
流産がとてもつらかったんだと思います。
お子様が生まれるのを楽しみにして、
待ち望んで、赤ちゃんが生まれたら、
みんなが幸せになると思ったんですよね。

(ホク子)
でも、やっぱりうまくいかなくて、
母に「ガッカリした」って言われて。

(弁護士)
ホク子さん。
お母さんは「ガッカリした」なんて言っていなくて、
ホク子さんにはそんな顔に見えただけですよ。

(ホク子)
私は妊娠したとき、
初めて母のことを気にしないで、
自分だけの自由な気持ちで、
「幸せだ」って思うことができました。

(弁護士)
それだったらいいじゃないですか。
離婚する必要ないんじゃないですか?

(ホク子)
母は納得してくれるのでしょうか。

(弁護士)
本当に離婚を考えているなら、
話し合うのはお母さんじゃなくて、
旦那さんだと思いますよ。

【ホク子のその後】

離婚を決めるのは法律じゃないか

ホク子は弁護士の言うことは、
いちいちもっともだと思った。

弁護士は占い師でもないのに、
たった1時間のこんな話のために、
1万800円の相談料を払ったことも、
ばかばかしいような気もした。

でも、こんな話を、
誰に真剣に話せるいうのだろう。

夫に話をしても、
母と娘の諍いに巻き込まれたくないと思うだろうし、
流産したことについて、
夫に心配をかけて気を遣わせることになってしまう。

学生時代の友人には、
「気にしすぎ」と笑い話にされるか、
母と同じように「やり直し」と言われそうだ。

でも、弁護士にはいかにも弁護士らしい、
「離婚は夫婦の問題です」
「ホク子さんの人生ですよ」
というまじめなことしか言われなかった。

離婚は夫婦の問題かもしれないが、
離婚を決めるのは法律じゃないか。

そんなときホク子の脳裏をよぎるのは、
産婦人科の待合室での、
ため息が今にもこぼれそうな、
母のガッカリした横顔だった。

私にとって母は法律よりもリアルな鉄格子だった

そんなホク子の悩みをよそに、
母はまだホク子の家に通い詰めていた。

その日は、母が来たにもかかわらず、
夫も一緒に家に居た。
さらに、珍しく夫が母とホク子の夕食を用意してくれた。

夫は言葉数が少ないが、
優しい人だった。
そのぶん、言わなきゃいけないことも言わず、
見て見ぬフリをするのも得意だった。

すると母は言った。

「ホク子にはもったいないわ」

「こんな優しい旦那様」

また・・・・・・ホク子はカッとなって、
母の顔を盗み見た。

そのときの母の顔は、
あの日と同じ、今にもため息がこぼれそうな横顔だった。

「私が離婚したらお母さんは納得するの?」

「私がお母さんの言うとおりの部活や学校を選ばなかったことが、
 お母さんはそんなに気に入らないの?」

心の中には、
次々と言葉があふれてくるのだが、
それが声にならず、
ホク子は喉がふさがり、
唇を噛んだら涙だけがこぼれた。

Lopolo
Lopolo

夫が語った真相

「それなら離婚しなさい」

母はホク子を睨みつけて言った。
ホク子は母の形相にギョッとした。

というのは、子供のときから、
母は何かとホク子を否定してきたが、
そのときの顔はどこか笑っていたからだ。

そんな母の表情は、
まるでホク子をバカにしているように思われて、
ホク子は好きではなかったが、
こんなふうに睨みつけられることはなかった。

母は、
夫が作った夕食も食べずに、
そのまま帰って行った。

母が帰った後、夫が話してくれた。

母は、いつも涙を見せない私が、
流産の処置の日、涙を流しているのを見て、
動揺したという。

母は、
「自分がもっとおおらかに育てていたら」
と自分を責めていたという。

そして母は「流産になって申し訳なかった」と、
泣き崩れて夫に謝ったというのだ。

夫は流産のことよりも、
母とホク子との関係を「ちゃんとする」ことが、
まず大切だと思い、
母にもっと家に来るようにと声をかけたそうだ。

夫はまさか母とホク子が、
それによってますます険悪になっているとは、
思っていなかったと、
母任せにしたことを、ホク子に謝った。

いったいなぜこうまで、
ホク子の周りは、
「相手のせいだ」と言いながらも、
「自分が悪かった」と謝る人ばかりなのだろう。

ただ夫も、「やり直していいのよ」という母の言葉の真意が、
離婚を意味するのかはわからないようだった。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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