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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

モラハラの背比べ

【ラメ子の場合】

夫は「雲の上」の存在だった

ラメ子は国立大学を出たものの、
文学部というのがあだになったのか、
志望していた専門職種の企業からは、
内定をまったくもらえなかった。

ようやく大量採用の保険会社から内定を得たが、
ラメ子自身が、自分は「使い捨て営業職」にしかなれないと、
最初から思っていた。

いや、使い捨てになるほどの仕事もできないまま、
年を重ねるのだろうと思った。

「将来を思うと、資格を取るしかないだろう」
と思ったラメ子は、
目指すなら大きな目標がいいと思い、
司法試験の予備校に通うことにした。

「社会人になってからとりあえず資格とか考えちゃうなんて、
なんて自分はありきたりなんだろう」
と思ったが、

ラメ子自身、自分のことを、
本当に「ありきたりな人間」だと思っていたから、
地道な勉強をまずすればいいと思った。

夫とはその司法試験の予備校で出会った。
夫は、すでに司法試験に合格しており、
司法修習生という研修生になるのを1年ずらして、
予備校で講師やチューターの仕事をしていた。

司法試験の勉強は身の丈に合っていない、
と思っていたラメ子にとって、
司法試験にすでに合格している当時の夫は、
「雲の上」の存在だった。

そんな夫がいよいよ司法修習生になることになり、
予備校の受講生らで壮行会を開くことになった。

ラメ子は学生や無職の浪人生が多い予備校で、
そんなに人付き合いはしていなかったが、
なぜか誘われた。

そのとき初めて、夫と親しく話をした。

司法試験合格者という「雲の上」の存在は、
酔っ払っていても、くだらないことを言っていても、
どこか「世の中のことを、なんでも知っている人」のように目に映った。

ただ、社会人経験のない夫にとってラメ子は、
ほかの予備校生らとは違って、
いちおう社会人だったこともあり、
ある程度の落ち着きもあったのだろう。

司法修習生になって予備校を離れた夫から、
頻繁にメールが来るようになって、
なんとなく付き合うことになった。

司法試験をあきらめたラメ子

司法試験の予備校ではだいたい、
2年間のコースを終えると、
司法試験の「初受験」となった。

ラメ子もそのつもりで、
保険の営業の仕事と並行して、
予備校に通っていたが、
どうしても休みがちになった。
休んだ講義のビデオ補講も追いつかず、
2年間のコースをなんとか終えるときの模擬試験も、
さんざんな結果だった。

その頃、夫はちょうど司法修習生の研修期間も終盤となり、
弁護士としての就職先も決まっていた。

夫から法律の話や裁判の話を聞かされても、
意味はわかるが内容に興味が湧くこともなかった。

ちょうど、ラメ子が予備校に通っていた頃は、
司法試験の制度が大きく変わる時期で、
あと2~3年で、「誰でも受験できる」司法試験ではなくなると、
そのような話までされていた。

そんなことも相まって、ラメ子は、
2年間の予備校代をまったく無駄にする形で、
1回も司法試験を受けることなく、
司法試験の勉強を止めにした。

夫は
「たくさんの報われない受験生を見てきたから、
そうなる前に止めてよかったよ」
と言ってくれた。

ラメ子に芽が出ないことは、
夫もわかっていたのだろう。

ただ、予備校に2年間通ったおかげで、
仕事の合間に勉強をするペースはできていたので、
保険の営業に役に立つほかの資格試験や社内試験は、
ほかの同期入社の人たちよりも速いペースでパスできた。

ただそれでも、「ありきたり」なラメ子は、
仕事の評価も成果も「ありきたり」で、
30歳になったとき、夫と結婚した。

周囲からは「いつの間に弁護士と」と、
冷やかし半分やっかみ半分の反応だったことにラメ子は驚いた。

そういえば司法試験の予備校に通っていることは、
会社ではほとんど隠していた。

ただ結婚式では、
夫が勤務する事務所の代表弁護士の主賓挨拶が、
あまりにもぎこちなかったことや、
夫の同期の弁護士の余興とメッセージが、
信じられないくらい下品な内輪ネタだったことから、
結婚式に参加したラメ子の友人らは、
異口同音に、
「弁護士と結婚するのって、
大変そうだね」
と言った。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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