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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

私は強い男を求める(上)

【ハニ子の場合】

検察官夫婦の実情

ハニ子は検察官。
夫も同期の検察官。

閉鎖的な組織だからか、
検察庁は社内結婚が多い。

役所なのになぜかみんな自分の組織を「会社」と呼ぶ。

ハニ子夫婦のように、
検察官同士の夫婦も少なくない。

検察官は、およそ2年から3年の周期で、
都心部と地方を往復するような異動がある。

夫婦が共に検察官だと、
ある程度、赴任地は配慮してくれるが、
配慮だけを求めていたら出世できない。

ただそれでも、女性検察官であれば、
育休を取ることもまぁ許される雰囲気だし、
子供が小さいうちは、
時間に余裕がある部署に配属してもらいやすい。

男性検察官であれば、
育休を申請するだけで大騒動だ。

ハニ子は子供が生まれたとき、
1年間の育休を取った。

そして育休明けで職場復帰すると同時に、
ハニ子の夫は地方の検察庁に異動となり、
単身赴任となった。

Elnur/Shutterstock.com
Elnur/Shutterstock.com

育休明けの職場で

育休から職場復帰したハニ子の上司は、
検察官としてのキャリアはそこそこだったが、
最後まで上り詰めるコースからは、
ぎりぎり外れた男だった。

権力組織を上り詰める野心が、
ポキッと折られた、
でも、まだ蓄えられた力がみなぎる、
ギラギラした男だった。

バツイチだという話だった。

ハニ子は、検察庁を見回して、
同世代の男性検察官に対しては特に、
「なんでこんなに仕事ができないのだろう」
「なんでこの人は検察官になったのだろう」
と思うことが少なくなかった。

ハニ子は、自分でも洞察力と判断力は、
悪くないと思っていた。
周囲から「優秀な女性検察官」と人に言われるたび、
言葉で謙遜していても、
「相対的に私は優秀なのだろう」
という実感もあった。

それは夫に対しても同じだった。

夫はそもそも人柄が弱気だった。

だからこそ家庭内では、
ハニ子が主導権を握ることができたが、
夫は検察官としての厳しさを欠いていた。

夫はその几帳面さに救われて、
決定的な「ダメ認定」こそされていなかったが、
「この人は出世しないな」
ということをハニ子は感じざるを得なかった。

ハニ子自身は、もともと、
組織で上り詰めることよりも、
そのときどきの現場で、
周囲から頭一つ出た評価を得ることに、
野心を傾けるほうだった。

出産と育児を経験したハニ子は、
「子供がいるからできないとは思わせない」と、
戦力としてさほど期待されていなかったにもかかわらず、
全てを平均80点で素早く処理し、
部署内の仕事の円滑さにも貢献した。

同僚たちは、
負けた悔しさと羨望を織り交ぜながら、
ハニ子を賞賛した。

しかし上司は、
「それが検察官の仕事の仕方だ」
と、純粋な眼差しと言葉でハニ子を賞賛した。

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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