よみタイ

桂文枝じゃなければ、誰がアロンアルファを落としたというのか

落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。
『去年ルノアールで』『たとえる技術』などで知られる奇才せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。
前回は割れたコンビニのスプーンとフォークについて、その犯人を(妄想上で)見事、探し当てた著者。今回もまた夜の街で発見した「瞬間接着剤の落とし物」をめぐる脳内の旅にでた。
ある駅前の路上にて。落ちていたのは、あの瞬間接着剤だった。(写真/ダーシマ)
ある駅前の路上にて。落ちていたのは、あの瞬間接着剤だった。(写真/ダーシマ)

転げ落ちたときに壊れた椅子を修理しなければ!

落とし物を見つけた時、それをいつ、誰が、どのように落としたのかを正確に知ることはほぼ不可能である。だがその分、想像が膨らむ。それが落し物を見つけた時の醍醐味だ。

想像は自由であるから、なんだって考えられる。「アロンアルファ」の落とし物を見て「桂文枝が転んだ時に落としたのではないか?」と考えてみることだってできる。

桂文枝と言えばテレビ番組『新婚さんいらっしゃい!』で、椅子から転げ落ちるパフォーマンスがおなじみだ。あの時にポケットの中に入っているものが飛び出してしまっても不思議ではなく、それが落とし物になったと考えることができる。たとえば家のカギ、小銭、ガム、パチスロのコイン。どれも桂文枝が倒れた瞬間、床に散らばるだろう。もしもポケットいっぱいにドングリが入っていたら、舞台上を縦横無尽に転がっていくはずだ。

しかし実際にはそんなシーンを見たことがない。なぜなら桂文枝はポケットに家のカギなどを入れて本番に臨まないし、ドングリでポケットをいっぱいにするほど子どもではないからだ。

ところが、アロンアルファとなると話は別である。アロンアルファなら本番中ポケットに入っていてもおかしくないからだ。

桂文枝は椅子ごと倒れるわけであるから、椅子が破損してしまう時もある。破損状態によってはその後の進行の妨げになってしまう。そんな時のために、応急処置用としてアロンアルファをポケットに忍ばせていても不思議ではない。それがポケットから飛び出して落とし物に、というわけだ。

また桂文枝はただ転げ落ちるだけではなく、その後に履いていた靴を投げるなどの行動をプラスすることがあって、それがセットを壊してしまう場合もある。その時もすぐに補修することができる。蛇足ではあるが、医療用アロンアルファというものもあり、桂文枝が転がり落ちて怪我をしてしまった時用にそれもポケットに入っていてもおかしくはない。

などと思いを馳せてみたが、それは収録スタジオでの話である。屋外に落ちているアロンアルファも桂文枝のものだと考えるのは無理が生じる。桂文枝が転がり落ちるのは番組の中だけであって、ところかまわず転んでいるわけないし、いつでも転んでいたら心配になってしまう。

ここで桂文枝が転んで落とした想像は終わる。ならば誰がどのように落としたというのか? 私の想像は続く。

もしかして、やくみつるか? 

やくみつるだと誰かが使ったアロンアルファをコレクションとして持っていても不思議ではない。よし、この線で想像してみよう。

などと考えていれば中央線遅延も苦ではないのだ。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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