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カップ麺の落とし主は、さかなクンでも元貴乃花親方でもなかった

落とし物の数だけ、物語がある――。落とされたモノにも、そして落とした人にも。 『去年ルノアールで』『たとえる技術』などの著作で知られる作家せきしろが、東京の街の片隅で、本当に見つけたさまざまな落とし物について考える妄想ノンフィクション。 前回は、なぜかよく落ちている靴底について、あれこれと想像をめぐらせた著者。今回は夜の恵比寿で発見された「カップ麺の落とし物」についてのストーリー。
渋谷区恵比寿二丁目にて落とし物を発見! ん、あれは、なんだ?(写真/ダーシマ)
渋谷区恵比寿二丁目にて落とし物を発見! ん、あれは、なんだ?(写真/ダーシマ)
近づいてみると、マルちゃん『麺づくり』じゃないか! (写真/ダーシマ)
近づいてみると、マルちゃん『麺づくり』じゃないか! (写真/ダーシマ)

カップ麺の蓋の上を見れば、だいだい誰のものかはわかるものだ

目の前にお湯の入った作りかけのカップ麺があったとする。それが誰のものなのかを知りたい場合は蓋の上を見れば良い。

多くの人はお湯を入れた後、蓋の上に何かを乗せる。そうしなければ蓋がめくれてしまうからだ。日清のカップヌードルの場合は蓋止め用のシールがついているのでそれを使えば良いが、そうでなければ蓋の上に箸を置いたり、種類によっては後から入れるタイプのスープを置いたりする。

この上に置いてあるもので誰のカップ麺なのかを推測することができる。お父さんの箸が置いてあればそれは確実にお父さんのカップ麺であるし、漫画雑誌なんかが置いてあればそれは兄弟や子どものものである。

もしもハコフグの帽子がカップ麺の上に置いてあればさかなクンと考えて間違いない。あの帽子を被っているのは彼しかいないからだ。また、象の形をしたジョウロが置いてあればラッキィ池田であるし、レモンならば梶井基次郎以外考えられない。ストールが置いてあればほぼ元貴乃花親方であるが、ねじれていれば中尾彬である。

サングラスが置いてあった場合はサングラスの種類による。こちらが映るタイプのサングラスならば鈴木雅之と決定して構わない。丸いレンズの場合はBARBEE BOYSのイマサで、投げ捨てるように置いてあれば高橋尚子だ。

日清の『タコヤキラーメン』だったら罠に引っかかるかも!? マジだぜ! 

しかし、道にただカップ麺が落ちていた場合はそうもいかず、ハコフグの帽子と一緒に落ちていればさかなクンのものだと推測することはできるが、カップ麺も帽子も一緒に落としてしまうなんてあまりにもおっちょこちょい過ぎて心配になってしまう。基本的に落とし物は誰のものかを判断するのは困難であり、そのため興味は「誰のもの?」から「なぜ?」に移る。

輸送中のトラックが横転したと考えられるが、その場合はあたり一面にカップ麺が散らばっていなければならない。あるいは、ごんぎつねが持ってきていたものと考えることもできるが、それは悲しくなる一方だ。栗や松茸もそばにあったら涙でカップ麺は見えなくなる。

忘れていけないのは、道に食べ物があったならそれは罠の可能性があるということだ。カップ麺好きを捕まえるための罠。「やったー、カップ麺だ!」と喜んで近づくと捕まってしまうのだ。

私はそのような罠に引っかからないよう日々気をつけているが、置かれているカップ麺が志村けんのCMでおなじみの『ケンちゃんラーメン』やダンプ松本の『タコヤキラーメン』であったら、あまりの懐かしさから我慢できずに罠に引っかかってしまうだろう。

その自信はある。

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せきしろ

せきしろ●1970年北海道生まれ。主な著書に、映像化された『去年ルノアールで』や、映画化された『海辺の週刊大衆』、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(共に双葉社)など。また、又吉直樹氏との共著『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)も。
ツイッターhttps://twitter.com/sekishiro

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