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パンの大量廃棄問題。常識を打ち破って成功した、広島の「捨てないパン屋」の秘策とは?

作るパンの種類を40種から4種のみに

その後、田村さんはヨーロッパへパン作りの修行に出ます。
修業先で目の当たりにしたのは、パンが一つも捨てられていないという現実でした。
しかも、日本では1日15時間以上働いていたのに、ヨーロッパでは家族を大切にしてゆったり働き、できるパンは自分が作るものより美味しい。

帰国した田村さんはそれまでのやり方をガラリと変えました。
常時40種類以上作っていたパンは、北海道産の有機小麦を使い、日持ちするハード系4種類のみに。国産の有機小麦は、外国産小麦の4倍の値段、国内産小麦の2倍の値段ですが、日持ちしないチーズなどの副原料を減らして経営が成り立つ工夫をしました。従業員も、8人から夫婦ふたりだけに。
さらに、店を開けるのは週に3日だけにしました。定期便を送る個人客やレストランなど法人のお客がいれば、決まった数を作ればいいので捨てるのは減ります。

捨てないパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」の田村陽至さん。(撮影/office 3.11)
捨てないパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」の田村陽至さん。(撮影/office 3.11)

こうしてパンの作り方や売り方を変えることで、田村さんは「捨てないパン屋」になることができたのです。
年商は変わらず、一人あたりの労働生産性が上がり、1か月の休みをとって旅行に行くこともできるようになったそうです。
現在、「ブーランジェリー・ドリアン」は、コロナ禍を経て店舗販売をやめ、レストランと定期便の顧客だけで営業しています。

「国産有機小麦を使ったパンなんて高そう」「理念には共感しても、毎日の食卓にそんな高級そうなパンは買えない」なんて思う方がいるかもしれません。
私は田村さんのパンの定期便を頼んでいるのですが、確かに1個1,000円以上します。
ところが、パンの重さを測ってグラム単価を調べてみたところ、意外なことに、送料を含めてもスーパーで買う100円台の食パンより安かったのです!
田村さんのパンは、ずっしりと詰まって重いです。

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井出留美

いで・るみ●食品ロス問題ジャーナリスト
奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。政府・企業・国際機関・研究機関のリーダーによる世界的連合Champions12.3メンバー。
『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬社新書)、『捨てないパン屋の挑戦 しあわせのレシピ』(あかね書房)など著書多数。
食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。

公式サイト●http://www.office311.jp/
Twitter●@rumiide

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