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都内の落とし物は年間280万件超! 人はなぜ落とし物をするのか? “失敗のプロ”が教える心理学的原因と対策

4月5日、『その落とし物は誰かの形見かもしれない』が発売されました。
著者である作家のせきしろさんが、街の片隅で本当に見つけたさまざまな落とし物について、あれこれ思いを巡らせる妄想エッセイ集です。

そこで気になった素朴な疑問は、落とし物って一体どのくらいあるんだろう? なぜ、人は落とし物をするんだろう?ということ。

警視庁によると、2020年に届け出のあった東京都内の落とし物(拾得届)はなんと2,806,032件!
落とし物トップ5は、1位:証明書類(634,311点)、2位:有価証券類(348,026点)、3位:衣類・履物類(292,031点)、4位:財布類(269,098点)、5位:かさ類(241,277点)でした。
書類や財布など、貴重品も多数落とされていることがわかります。

一体なぜ、人はこんなにも落とし物をしてしまうのか。どうしたら落とし物を防ぐことができるのか。自他共に認める“落とし物大臣”のエディターTが、ヒューマンエラーの専門家で心理学者の芳賀繁さんに取材しました!

(聞き手・構成/よみタイ編集部)

人間の注意リソースには限りがある

――芳賀先生、早速ですが、人はどうして落とし物をしてしまうのでしょうか。

世の中の落とし物は、大きく2つに分類することができます。
ひとつは、「歩いている時にポケットから財布が落ちてしまった」、「カバンから定期を取り出す時に家のカギが落ちてしまった」という、まさに「落とし物」。
もうひとつは、「コピー機の中に書類を忘れてしまった」、「電車の網棚の上にバッグを置いてきてしまった」といった、いわゆる「忘れ物」です。
忘れ物の原因は、心理学用語で言うところの、「展望的記憶の失敗」であることが多い。「コピーが終わったら取り出そうと思っていたのに、置いてきてしまった」「電車を降りる時に網棚から取ろうと思っていたのに、そのまま下車してしまった」など、やるべきことをタイミングよく思い出すことに失敗しているわけです。

zoomで取材に応じてくださった心理学者の芳賀繁さん。
zoomで取材に応じてくださった心理学者の芳賀繁さん。

――なるほど。どちらもよくあります……。「落とし物」と「忘れ物」をなくす対策を教えてください!

それが難しいんですよねぇ……。私もこういう仕事をしていますが、落とし物や忘れ物をよくしますから(苦笑い)。

落とし物については、例えばカギに鈴のようなものを付けて落とした時に気付きやすくしたり、タクシーなどから降りる時に必ず荷物が落ちていないか必ず振り返って点検したり、ある程度の対策は可能です。
落とし物は、歩きながらカバンから物を取り出すといった「ながら作業」の時に発生しやすいので、できるだけ立ち止まって動作を行う、立ち止まって確認するといった習慣をつけるだけでも、だいぶリスクを減らすことができます。

一方で、「展望的記憶の失敗」の対策は非常に難しい。朝出かける時に家族から「牛乳買ってきて」と言われたのに、帰りに駅に着いた時に思い出すことができなかった、なんていうのも展望的記憶の失敗です。思い出すべきことを覚えておいて、それを最適なタイミングで思い出す、それを自分の脳内で行うって、ものすごく高度なことなんですね。ある程度忘れ物するのは仕方がないくらいに思ってもらった方がいいくらい、非常にハードルが高いこと。
だから、忘れ物をゼロにするのはなかなか難しいですが、思い出すべきタイミングでアラームを設定しておくとか、チェックリストのようなメモを作っておく、傘など忘れやすい荷物は肌身離さず持っておくといった対策は有効でしょう。

財布は落とし物の定番。
財布は落とし物の定番。

――アラームの設定や、チェックリストの存在自体を忘れることもあるのですが……これってただの老化でしょうか?

メモや点検は習慣化することが大切ですから。何度か忘れてしまっても、めげずに続けることで身につくようになると思いますよ。

――落とし物や忘れ物をしやすい人の特徴はありますか?

うっかり落とし物や忘れ物をしやすい人というのは、確かにいるとは思います。ただ、私は個人の性格や性質に原因を求めるのは、あまり有益なことだと考えていません。
というのも、どんな人であっても、状況や環境によってはミスをするからです。

――どんな人でも落とし物のような失敗をしやすい状況というのは?

余裕がない状況ですね。
落とし物や忘れ物を防ぐためには「注意」が必要です。人間の判断や記憶に必要な注意のことを、心理学では「情報処理資源」あるいは「注意リソース」と言います。人間の注意リソースには限りがあるため、心のゆとりがなくなると、落としたことに気づいたり、必要なものごとを思い出したりするができなくなってしまいます。

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芳賀繁

はが・しげる●株式会社社会安全研究所技術顧問、立教大学心理学名誉教授、博士(文学)。
1977年に京都大学大学院修士課程(心理学専攻)を修了して国鉄に就職。鉄道労働科学研究所、鉄道総合技術研究所で鉄道の安全に関わる心理学、人間工学の研究に携わる。2006年、立教大学現代心理学部心理学科教授などを経て2018年4月から現職。専門分野は産業心理学、交通心理学、人間工学。
主な著書に『うっかりミスはなぜ起きる ヒューマンエラーを乗り越えて』(中央労働災害防止協会)『あなたのその「忘れもの」コレで防げます』(NHK出版)などがある。

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