2021.5.27
パンの大量廃棄問題。常識を打ち破って成功した、広島の「捨てないパン屋」の秘策とは?
日本では1年間に約600万トンもの食品ロスがあり、実は、そのうちの半数近くにあたる276万トンは、一般家庭から捨てられているのが現状です(2018年、農林水産省・環境省調べ)。
各家庭や個人で無理なくできる食品ロスの対策には、どのようなものがあるのでしょうか。
地球環境に優しく、食費の節約にもなる「捨てない食卓」の始め方を、食品ロス問題ジャーナリストの井出留美さんが食材ごとに解説します。
前回は、食用活用率がわずか1%の「おから」について考えました。
今回は、捨てられやすい食品の筆頭格「パン」について紹介します。
大量のロスを生む「欠品ペナルティ」の商習慣
閉店まぎわのパン屋さんに駆け込んだら、商品棚は空っぽ。そんな時、あなたは「なんでないの!」と不満に思いますか?
それとも「もう閉店だから仕方ないよね」と思うでしょうか。
以前、都内の百貨店のパン屋さんから相談を受けたことがありました。
百貨店から「閉店まぎわのお客さんもいろんな種類からパンが選べるように」と、全種類、閉店ぎりぎりまで残しておくよう指示を受けている。しかも「ブランドイメージが下がるので値引きは禁止」。
だから毎晩、ゴミ袋いっぱいに泣く泣く捨てている……という相談でした。
コンビニやスーパー、百貨店では、食品の作り手に欠品(品切れ)を禁ずるところが多いです。売り上げを失いますし、他の店にお客を取られてしまうからです。メーカーは、欠品すると「取引停止」と言われることも多く、補償金を求められることもあります。食品業界で「欠品ペナルティ」と呼ばれるこの商慣習は多くのメーカーを悩ませています。余って捨てるコストを払うのは売り手ではなく作り手だからです。
そして作り手が払うコストは、当然消費者も負担することになります。
特にパンは捨てられやすい食品の筆頭格。
パン屋を営む私の知人は、「パンは空気を売っているようなもの」と言っていました。
原価が安く、廃棄コストを売価にのせて販売し、毎日たくさん捨てることで経営が成り立つ仕組みになってしまっているというのです。
そんな中、2015年、パンを一つも捨てないパン屋が登場しました。
広島にあるパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」の三代目、田村陽至さんです。
モンゴルで羊の解体を経験し、「食べることは生き物の命をいただくことだ」と実感したという田村さん。
あるとき、モンゴルで出会った友人のダリアさんが広島まで来てくれました。
閉店後、売れ残ったパンをごみ袋いっぱいに捨てる田村さんの姿を見たダリアさんは「なんで捨てるの? 安売りするとか誰かにあげるとかすればいいのに」と声をかけます。
「配って歩く時間もないし、捨てるしかない」と力なく答える田村さんと、「やっぱり食べ物を捨てるのはおかしいよ」というダリアさんは、言い合いのようになり、最後は田村さんが「日本じゃ、しょうがないんだよ!」と声を荒げる展開に。
ダリアさんが正しいのはわかっている、もちろん一生懸命作ったパンを捨てたくはない。でも、その時は捨てるしかありませんでした。