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DV避難、子どもに伝える?【逃げる技術!第10回】計画を知られて頓挫するケースも

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

役所の他に、警察や学校・園にも相談して、家出準備

さて、これまでの連載でもふれてきたことですが、我が家にはDVや虐待があり、役所の女性相談員さんや弁護士さんから「子どもを連れてなるべく早く夫から離れて」と勧められてきました。今回は、家出について子どもにどう伝えたかについて書きます。

わたしがDVについて区役所で初回相談を受けてから家出するまで、逃げるダンドリをしていた期間は実質3週間ほど。その間、アドレナリンがぶわーっと出ていた気がします。自転車であちらこちらを駆けめぐり、それでいて頭は冴え冴えとしていました。とにかくいろんな準備で忙しかったのです。

第5回で書いたように、子どもの通う園や学校や習い事先の先生には、A4・1枚の用紙に状況をまとめて手渡しし、その上で口頭でも話して共有しました。具体的には、1、DVがあること 2、役所や弁護士の見解 3、家出先 4、子どもの状況認識 5、もしパートナーが子どもを迎えにきたときには引き渡さずにすぐ母親であるわたしに電話してほしいということです。

役所の福祉課のアドバイスに従って自治体の子ども家庭支援センターや、警察の生活安全課にも事情を共有しました。子ども家庭支援センターは、わたしが思っていた以上に我が家の父子関係を重く見たようです。まさかそうなるとは思っていなかったのですが、後日、そこから都の児童相談所にエスカレーションされました。

夫はスマホのGPSでわたしの居場所を見ることができますから(第5回参照)、役所や支援センター、また警察署にいくことで計画が知られるのではないかとハラハラしていました。とてもこわかったのを覚えています。

セカンドオピニオンをとってみた。弁護士A先生、B先生の意見

これは人生の中でも重要な決断だと感じたので、委任する弁護士さん(報酬を支払って自分の離婚案件の代理人になってもらう弁護士)の他にも、複数の弁護士さんに相談をしました。いわゆるセカンドオピニオンです。

初回相談であれば、無料で弁護士さんとメールでやりとりしたり、5,000円程度で30分ほどのテレビ通話や直接面談のできる弁護士事務所も少なくありません。わたしがセカンドオピニオンをとった2人の先生のご意見をかいつまんでご紹介します。

わたしより15~20歳上で、DV案件の経験が豊富な弁護士のA先生は「あなたのことを『奴隷』『家畜』と呼んで笑っていたような人がね、改心することはないと考えたほうがよいですよ。いくら彼に『変わってほしい』と願っても、彼があなたの望むものを与えてくれることはない。どうやって彼にあなたのことを『あきらめさせるか』のほうが重要ですよ」とはっきりいわれました。

A先生のアドバイスは、実は、この時点のわたしにはとても承服しがたい内容でした。内心、ムッとしたことを覚えています。うちの夫はもう少しマシなはず、話せばきっとわかってくれる、と思っていたのです。しかし後々、A先生のアドバイスが残念ながら真実だったとわかっていきます。

もう一人、わたしと年齢も近く、小さなお子さんのおられる弁護士のB先生は「わたしは国内の離婚案件にはあまり詳しくはないのですが……」(国際結婚・離婚にお詳しい方でした)と前置きしたあとで「お子さん(当時6歳・3歳)が小さいうちの離婚では、子ども本人の意思表明というのが難しいですから、その点に十分に気をつける必要があります」といわれました。

Tips 35
同じ案件を相談しても、弁護士さんによって見立てやアドバイスは異なります。

わたし自身、子どもから父親を取り上げることになるのでは、という良心の呵責のような感情がありました。ですので、B先生という専門家からその点をはっきり指摘していただけたのはかえってよかったと思います。

小さな子どもは自分の言葉で話すことも難しいですし、気持ちも変わりやすいものです。それでも、いえ、だからこそ、国際的な流れとして「子どものアドボカシー」が重要視されつつあります。アドボカシー(advocacy)とはラテン語のvoco(声を上げる)を含む言葉で、立場の弱い人が、権利や意見を表明できるようサポートすることを意味します。

比較的新しい概念ですから、より若い弁護士さんのほうが、この立場に立って意見を下さるように思います。離婚調停では、調停員さん(ご年配の方が多い)から「とにかく早くお父さんとの面会交流を実施して下さい」という話になりやすいのです。子どもの気持ちは置いていかれている、と感じる場面が多々ありました。

わたしがその場の雰囲気に押されて「はい。夫に会わせようとして子どもを説得してはいるのですが……」などと返事をすると、すかさず自分側の弁護士さんが「それだと、お子さん本人の意思はきちんと確認されないのではないですか?」「お子さんの気持ちに反する面会になると逆効果なのでは?」などと意見してくれて、ああそうだった、我が子とはいえ自分の所有物のように扱ってはいけない、と思い直すことが何度もありました。

Tips 36
世界的に、「子どものアドボカシー」を尊重する時代へ。家庭内のトラブル解決においても、それは同じ。
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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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