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DVの3段階のサイクル【逃げる技術!第11回】ハネムーン期って何?

DVから子連れで逃げた編集者の藤井セイラさんが「安心・安全・HAPPYなDV避難」を描くエッセイ。モラハラって何? どこに相談する? 親にどう話す? お金は? 「離婚だって結婚情報誌みたいに明るく語りたい!」と、体験談&Tipsをつづります。

イラスト/藤井セイラ 監修/太田啓子弁護士(湘南合同法律事務所)

DVにはサイクルがある。緊張期→爆発期→ハネムーン期

前回、役所で「DV避難を子どもにどう伝えたらよいか?」と聞くと「事前に子どもに教えるのは慎重に」とアドバイスされたと書きました。子どもからパートナーに漏れて、避難が失敗する可能性があるためです。

役所の相談員さんは、DV避難が事前に加害者に知られると危険な理由を説明してくれました。

「DVには一定のサイクルがあります。まず①の緊張期(蓄積期とも)。加害者はイライラして、家の空気がピリピリしている時期です。

家族の他のメンバーは気を遣って生活します。加害者はパートナーや家族を支配したいと考えていますが、完全には満たされず、ストレスをためていきます」

説明を聞きながら、たしかに我が家はその通りだと思いました。わたしも子ども達も、いつも夫の機嫌を伺いながら暮らしていました。

朝起きたらまず叱られます。例えば夫が前日の夜、洗濯物を干したことについて。衣類を仕分けして洗濯機を回したのはわたしです。夫は酒を飲みながら洗濯が終わるのを待ち、一部の衣類だけを取り出してハンガーに干し、あとは乾燥ボタンを押すだけです。

「おい、何か忘れてるぞ」
「……」
「洗濯のお礼は?」
「……ありがとうございます」
「心がこもってない!」
「……」
「ありがとうとごめんなさいがいえない奴は、人間のクズだ!」
「……」
「だいたい、世のお母さん方というものは、朝5時には起きるんだ! 普通はお母さんのお味噌汁の匂いとトントントンという包丁の音で目が覚めるんだよ! それがうちときたら……」

夫は朝からずっと怒っていました。

Tips 39
「母親なら〜すべき」「妻というものは〜でなくてはいけない」といった性別役割分担や古典的な家族観に基づく決めつけを、DV加害者はしばしば利用します。

身体的危害の可能性もあり、ハイリスクな「爆発期」

相談員さんは続けてこう話しました。
「それから②爆発期。この時期には身体的暴力が出たり、怒鳴ったり、また生活に極端な制限を加えたり、罰したり、とにかく相手に恐怖を与えます。恐怖で相手を支配して、コントロールしようとするんです」

これも心あたりのある話でした。

夫は唐揚げを投げ散らかし、怒鳴り、家電を叩いて壊したことがあります。こんがりときつね色の唐揚げがポーンとバウンドし、弧を描いて飛ぶのがスローモーションで見えました。

あ、白い壁なのに、賃貸なのに。油染みがついてしまう。あんな高いところ、どうやって掃除しよう。大変な状況なのに、そんなどうでもいいことを思ったのを記憶しています。唐揚げはよく弾みました。夜店のスーパーボールみたい、と思いました。

子ども達(当時は5歳と2歳でした)はおびえ、わたしの脚にしがみつき、泣きじゃくります。夫は眉をつり上げて怒鳴っています。母親が子どもを甘やかして弱い人間に育てるからだ、俺はそれを直してやっている、という趣旨のことをいっていました。

危険を感じたわたしは最後まで聞かず、子どもを抱きかかえてそそくさと寝室に移動し、3人でぎゅっと固まって寝ました。娘達の頬は涙でびしょびしょでした。暗闇の中で当時5歳だった長女は「ママ、パパと離婚して」ときっぱりいいました。

わたしは黙っていました。当時のわたしは、離婚なんてできないと思い込んでいたのです。子どもは「ねえ、ママ。どうして離婚してくれないの」といいました。ひくひくと泣きながら、やがてふたりとも眠っていきました。

リビングにいる夫から、俺はお前や子どものために怒ってやっているのだという内容のショートメッセージが届き、ブーンブーンとスマホが鳴っていました。

Tips 40
「お前のせいで俺が怒る羽目になる」などと、まるで被害者のようにふるまうことは、DV加害者の典型的な態度です。

またある晩には、当時2歳だった子どもを叱って持ち上げ、はだしのまま外につまみ出し、ドアに鍵をかけたこともあります。現在ではこの行為は「締め出し」と呼ばれ、虐待の一つとされています。当時のわたしは不勉強で知りませんでした。

「パパ、ごめんなさぁい!」

泣き叫ぶ声がドア越しにずっと聞こえていました。いつになれば夫が子を許してくれるだろうかと、わたしは黙って待っていました。親として鍵を開けて、子どもを守らなくてはいけなかったのに、夫に逆らうことができませんでした。

結婚当初、ベッドに横たわるわたしに怒鳴りながら、殴るそぶりをして、頬すれすれに拳を振り下ろしたこともあります。同時に「結婚をなんだと思ってるんだ!」と怒鳴られました。そうか、結婚とはこういうことか、いうことを聞かなければ殴られかねないのだ、とあきらめを植えつけられた出来事でした。恐怖は認知を歪ませます。

Tips 41
子どもを外に出してドアに鍵をかける「締め出し」は、虐待です。
殴る真似をして、身体すれすれに拳をかすらせるのも暴力。身体的DVです。
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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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