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殴る蹴るだけがDVじゃない【逃げる技術!第2回】あなたの周りにも隠れ被害者はいませんか?

自分の親に話すのが、一番つらかった

わたしも、夫にされてきたことを両親に伝えるときに一番の心の葛藤を感じました。親に話すことに比べたら、ここで文章に書くことくらいなんでもありません。とても口頭ではいえないので、弁護士さんが作成してくれた文書(受任通知)をそのまま手渡しました。

自分を育ててくれた人間に、こんなにも自分が粗末に扱われていたことを伝えなくてはいけないのは、申し訳なく、また恥ずかしい思いがしました。よくニュースで見聞きする、いじめられていた子の「親にだけは知られたくない」という心理は、このようなものだったのだろうか、と初めて思い知ったのです。

モラハラもいじめも、閉鎖的な空間で行われ、された側は恥の意識を植えつけられるため、なかなか人に打ち明けられません。被害を表明するのは、つらいものです。だからこそ、もしあなたが「もしかして……」という気になる場面を見かけたら「大丈夫?」と声をかけてあげてください。

Tips 3
いじめもDVも、悪いのは被害者ではなく加害者。
「自分に落ち度があるのかも」と考えず、SOSを出して。
お友達や親御さんにお話ししてみてください。
同時に、自治体などの相談窓口に電話をしてください。

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モラハラで自尊心が削られると、身体にも影響が

他人から毎日繰り返し「お前には価値がない」と言葉や行動で伝えられて自尊心を削られていくと、心のエネルギーが減って、正常な判断ができなくなります。体調を崩します。

無視される、大切なものを捨てさせられる、他人(わたしの場合は子ども)を巻き込んでバカにされる、理由をつけては外出を禁止される、といった不当な扱いを受けても、「こうされてもしかたない。自分がいたらないからだ」と考えるようになっていきます。身体の暴力がなくても、悪口や無視、周囲との遮断だけで、人は弱っていくのです。

抑うつ状態になり、やがては希死念慮にも襲われるようになります。けれど誰にも相談できません。どうしても喉から言葉が出ないのです。わたし自身がそうでした。

ぜんそくで通っていた呼吸器科でも、産後のうつで通い始めたメンタルクリニックでも、臨床心理士の先生が相手でも、乳児健診の保健師さんにも、「なにか他に気がかりは?」とたずねられて、ぼんやりと夫の顔が浮かぶのです。あの、夫が、夫が、わたしのことを、いつも、えーっと……と、胸のあたりまで言葉が出かかるのですが、言葉にならない。それで「特にありません」と答えて問診は終了してしまいます。

その結果、つねにぼーっとしていて、寝ても覚めても偏頭痛がひどく、メモリがいっぱいになった動きの悪いPCのようなわたしができあがりました。車がビュンビュン通っている大通りで、赤信号なのに堂々と横断歩道を渡ろうとしてしまいます。

わたしは10年以上にわたってモラハラの状況下にあったのですが、役所の相談窓口に行くまで、自分がそのような状態にあることを自覚できていませんでした。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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