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【中村憲剛×島田慎二対談 前編】スタジアムやアリーナ…最高の舞台は、選手にも地方創生の力にもなる

昇降格制度をなくす改革はサッカー界の人間としては衝撃的だった

島田慎二 
憲剛さんはバスケットボールとなにか関わりは?

中村 
学生時代はサッカーが忙しかったので日常的にバスケを見る環境ではなかったですし、当時は、まだプロ化されてもいなかったじゃないですか。ただ、田臥勇太選手(宇都宮ブレックス)は同じ学年なので、彼がアメリカに行っているとか、その動向は追いかけていましたね。野球の松坂大輔さんもそうですけど、この2人はすごいなっていう目で。

島田 
同じ1980年生まれですもんね。

中村 
バスケとの関わりで言えば、ちょうどBリーグが始まる直前に川崎ブレイブサンダースの篠山竜青選手と雑誌の企画で対談させていただいたことをきっかけに、ブレイブサンダースの試合を観に行くようにもなりました。

島田 
フロンターレとブレイブサンダースはとてもいい関係で、いろんなことをやっていますよね。

中村 
とどろきアリーナと等々力陸上競技場は目と鼻の先なので、フロンターレのサポーターの中にも試合時間がズレていたらブレイブサンダースの試合にも行っている方もいるみたいです。いや、むしろ今の勢いはブレイブサンダースに押されているんじゃないかなって。フロンターレもうかうかしてられないぞとよく思うんです。もちろん、川崎市という同じホームタウンにある共存関係なので、ライバルみたいな意識ではないのですが。

島田 
わかります(笑)。

中村 
初めてブレイブサンダースの試合を観に行ったとき印象的だったのが、火を使った演出含めた雰囲気作りの素晴らしさで。バスケ観戦にプラスしてショーを観ているみたいな感覚になりました。試合も演出もどちらも面白いし、観客のみなさんもすごく盛り上がっていてメチャメチャ楽しかったです。

島田 
そう言ってもらえるとうれしいです。
JリーグとBリーグの関係で申しますと、そもそも川淵(三郎)さんがともに初代チェアマンで共通しています。Bリーグは時間的な制約があるなかで、当時2つに分かれていたリーグをひとつにし、一気に改革してスタートする必要があったので、規定や規約はほぼJリーグのものを活用しています。だから、地域密着などのフィロソフィーもほぼ踏襲しています。2016年からスタートして5シーズンほどやってきて、バスケに適したものに合わせて少しずつアレンジしていこうとしているのが今の段階ですね。
そのアレンジの一つに、2026-27シーズンから単年の競技成績による昇降格制度を廃止して事業力によるエクスパンション型の制度への移行があります。

【※編集部注。Bリーグは2021年6月に「将来構想」の審査基準等の概要を発表。新B1、新B2、新B3(仮称)として再編成し、新B1は売上12億円以上、平均入場者数4000人以上、入場可能数5000人以上でスイートルーム設置などの基準を満たすアリーナがライセンス基準となる。その基準をクリアすればクラブ数に限りはない】

中村 
バスケを知らないサッカー界の人間からすると昇降格制度がなくなるというのはかなり衝撃でした。フロンターレでJ2からJ1に昇格してから、ありがたいことに残留争いというものをほとんど経験していないんですけど、経験した人たちの話を聞くと(残留を決めるのは)何ごとにも代えがたい打ち震えるものだっていうんですよ。選手としては経験したくないものですが、残留争い、昇格争いはメディアにも取り上げられますし、相当注目されます。ただ、それをなくすと聞いてBリーグにはきっと明確な理由があるからだろうなとは思っていました。

島田 
昇降格があったほうがハラハラドキドキもあって面白くなる要素はもちろんあります。「降格したくない」、もしくは「絶対に昇格したい」と思ったらチームにある程度の投資もしていかなくてはなりません。そのことはこの3~4年、いいエンジンとなってビジネス面にも寄与して、事業規模も全体的には右肩上がりでした。しかしその結果、何が起こったかと言うと、当然、同一カテゴリー内での競技力の格差です。

Jリーグではフロンターレのような強いチームもありますが、それでも戦術や戦い方によって下位チームが上位チームを破る試合も少なくありません。ただ、バスケはその競技特性から、そもそもチームの実力差がすごくつきやすいスポーツで、競技力の高いチームと比較的低いチームでは、アップセットが起こりづらいということもあると思っています。スポーツくじ(toto)も今後始まっていくなかで、検討すべき観点という側面もあります。
それともう一つは、「全国各地域にバスケの観戦環境として優れたアリーナをつくっていきたい」と企業や行政にお願いしていて、クラブも最大限の努力をしているのに、降格してしまう可能性がある仕組みですと、どうしても投資に躊躇しますし、行政の承諾も難しくなります。

中村 
とてもわかりやすい説明をありがとうございます。今、説明をいただいて納得しました。確かにバスケとサッカーの競技面の違いはあると思います。

島田 
バスケのNBAにしても、プロ野球やメジャーリーグにしても昇降格はありません。昇降格制のハラハラドキドキよりも、地域が盛り上がっていくためのエンジンとなるアリーナを造って、地に足をつけて長く事業をやっていける状況をつくることがBリーグにとっては優先だと思い、この案に踏み切ったという形なんです。

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新刊紹介

中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

島田 慎二

しまだ・しんじ
1970年、新潟県生まれ。
日本大学卒業後、93年、株式会社マップインターナショナル(現・株式会社エイチ・アイ・エス)入社。2001年、ハルインターナショナルを設立。10年に同社売却、同年リカオンを設立。12年、千葉ジェッツ代表取締役社長就任。17年、B.LEAGUEバイスチェアマン(副理事長)就任。19年、千葉ジェッツ代表取締役会長就任。20年、B.LEAGUEチェアマン就任(現任)。
公式ツイッター@SHIMADASHINJI

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