2022.3.19
【中村憲剛×佐伯夕利子対談 後編】 日本サッカーの将来のため、中村憲剛には海外に出て、いいところもダメなところも見てほしい
佐伯さんは3月15日にJリーグ理事を退任されましたが、Jリーグの「シャレン!」(社会連携活動)にも尽力されてきました。スペインサッカーと日本サッカーの話から、日本人選手の海外移籍について、そして「シャレン!」を通じてのJリーグの魅力、そして中村憲剛さんの将来についてまで、たっぷりと語っていただきました。
(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
(前編より続く)
イニエスタもトーレスも、Jリーグナンバーワンプレーヤーは中村憲剛だと言っていた
中村
昨夏の東京オリンピック男子サッカーの準決勝でU―24日本代表とU-24スペイン代表が戦いました。日本は延長後半にゴールを奪われて敗れましたが、負けたという結果もそうですが、その内容が僕のなかでは結構な衝撃で。昨今、日本から多くの若い選手が欧州のリーグに行くようになり、それぞれが経験値を上げてきた中で世界に少しは近づけたかなと思っていたのですが、実際にああいう舞台で戦った時に、彼らとの距離はまだまだ遠いと思い知らされた感じがして。
佐伯
U-24スペイン代表は(試合の)コンディションが良くないと日本側で言われていたんですよ。でも、憲剛さんとも話をしたけど、それはコンディションではなくアクティベーション(活性化)の問題。彼らはクラブや年代別を含む代表で、世界の大きな舞台で経験を積んでいるから、世界であまり実績のない対日本だとアクティベーションの発火剤になりにくいんです。たとえばビジャレアルのアカデミーは各世代のカテゴリーで圧勝してしまうチームなので、毎年リーグで40近い試合数があっても、100%の力を出す試合となると、対バレンシアとのダービーくらい。
スペインは大きなクラブのアカデミーにいい選手が集まり過ぎていて、そういった悪習慣が染みついているんです。だから、スペイン語で言うところのアクティバール、すなわちアクティベーションが苦手なんですよね。東京オリンピックの前に行なわれたEURO(欧州選手権)でアクティベートしてきますから、オリンピックではU―24ブラジル代表と当たるまでは、というところもあったように私には見えました。
中村
距離が遠いなと改めて思っていたところに、そのお話だったんで、僕にとってはなおさら衝撃的でした。ただ、そのときにスペインサッカーと日本サッカーの環境の話にもなりましたよね。(その差を埋めていくには)日本人選手がスペインや海外でプレーしたほうがいいという観点だけではなくて、JリーグにはJリーグの良さがあると佐伯さんに言っていただけた。誤解を恐れずに言うと、憧れ半分で欧州に行けばいいっていうものじゃない、と。
佐伯
はい。フェルナンド・トーレスにしてもアンドレス・イニエスタにしても、Jリーグナンバーワンプレーヤーは中村憲剛だと言っていましたからね。憲剛さんは、まさにJリーグのなかで育ってきたプレーヤーだから。
中村
それは本当に光栄すぎました(笑)。それを佐伯さんに言っていただけたのも大きかったです。
佐伯
彼らにとってはどの舞台に立っているかではなく、その人がどういうプレーヤーであるかが大事なんです。育成年代でも海外に出たがっている人はすごく多い。ただ、ひとつ言わせていただくと、ハクをつけるくらいの感覚なら行かないほうがいい。指導者でもそうです。海外には当然リスクもある。試合に出られないことだってザラですから。そこのリスクをあまり軽視しないほうがいいってことですよね。
ビジャレアルで言わせてもらえば、もしも日本に本気で欲しい選手がいたら、本気で獲りにいきます。つまりそこまでの選手でなければ、当然リスクも高くなることをちゃんと理解しておく必要があるのです。
中村
ここも「Being(あり方)」、ですね。もちろん海外で経験を積むこと、知らない世界を知ることはとても大事なことだと思います。ただ、それをどう自身の成長につなげていくかのほうがよっぽど大事なことだと思うんです。日本でもやれることは多々あるし、ここから先世界と肩を並べて戦うためには、「川崎フロンターレにいて、海外に出なくても世界で戦えるような選手が出てくるようにしたい。そういうクラブ、Jリーグにしなければならない」と佐伯さんの話を聞いてすごく思ったんです。佐伯さんが言いたいことは、みんなが行った方が良いというからとりあえず自分も海外に行ってみようかと、みんなが右向け右みたいになってはいけないんだ、ということですよね。あくまで自分が今持っているものに何かエッセンスを加えて、その何かを国外に求めるのか国内で求めるかの違いだと思いますが、オリジナルのものを出すようにしていくことが大事なんだぞ、というふうに僕は解釈しました。
佐伯
うまく解釈していただきました(笑)。