よみタイ

【中村憲剛×横田真人対談 前編】川崎フロンターレの取り組みも参考に、地域密着の新しい陸上競技クラブを作る 

中村憲剛さんの対談連載「思考のパス交換」、3人目のゲストは陸上男子800m元日本記録保持者で2012年のロンドンオリンピック、同種目において日本人選手として44年ぶりに出場を果たした横田真人さん。

米国公認会計士資格も持つ異色のランナーは引退後に指導者に転身し、現在は「TWOLAPS TRACK CLUB」を立ち上げ、東京オリンピック陸上女子10000mに出場した新谷仁美選手(積水化学工業)や1500mに出場した卜部蘭選手(積水化学工業)らのコーチを務めています。

一方で、今年は中距離に特化した大会「TWOLAPSミドルディスタンスサーキット」を開催。高額の優勝賞金が出たり、市民ランナーと一体となるイベントで盛り上がりを呼び込むなど陸上界の“人気向上仕掛人”としても有名。ファン獲得のために参考にしているのが、実は地域密着の成功クラブとして知られる川崎フロンターレだということで……。連載初の完全初顔合わせの対談、スタートです。

(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)

“中距離”という劣等感からうまれた新しい陸上大会

中村 
はじめまして。お会いできるのを楽しみにしていました。

横田
こちらこそです。じつは「TWOLAPS TRACK CLUB」に熱烈なフロンターレファン、憲剛さんファンがいまして。卜部蘭っていう。

中村 
もちろん、知っています。SNSでもフォローしていただいていて。

横田
彼女からよくフロンターレのこと、憲剛さんのことを聞かされているので、僕こそお会いできて本当にうれしいです。

中村 
この対談にあたって、いろいろと横田さんに関する記事を読ませていただきました。中距離の陸上大会(TWOLAPSミドルディスタンスサーキット)を自分で開催するなんて、すごい行動力、パワーだなって。ゼロからイチにするって簡単じゃないと思うんです。なぜ、開催しようと思ったんですか?

横田
言葉にするなら“劣等感”ですかね。

中村 
というのは?

横田
走る種目のなかでは100mとか短距離が特に注目されます。長距離も駅伝やマラソンは注目されますよね。唯一、日の目を浴びていないのが中距離なので。

中村 
サッカー選手は結構、中距離(の練習)やってますよ。長距離なら逆に開き直れるけど、800m、1000mとなるとちょっと気持ちが萎えます(笑)。スピードも持久力も求められるから、中距離って限界が引き出される感じがあります。

横田
僕も現役時代はそうでした。毎日、はいつくばっていましたから(笑)。

中村 
その中距離を盛り上げていこう、と。

横田
まさにそうです。大会は、大阪(8月)、福島(9月)、東京(10月)と3会場でやったんですが、大会ディレクターを出場する選手にやってもらったんです。それも会場別に違う選手に。

中村 
それは面白そう。

横田
大阪は大阪出身、福島は福島出身、東京は東京出身の選手にしたら、みんな個性的なアイデアを出してきて。まず大阪出身の石塚晴子選手はイラストを描くのが上手で「漫画にして参加者増やします」と宣言したら、それが本当にSNSでハネて。
福島出身の田母神一喜選手は福島の子供たちに対する愛情が半端なくて、小学生ランナーに800mのレースの先導をやってもらうというアイデアを出してきたんです。中距離の面白さってラストスパートにあって、そこを強調させるために400mまでは小学生を追い抜いちゃいけないというルールにして。そうなると必然的に遅くなるのでスパート合戦になる。観ている人も面白いし、小学生にとってもスペシャルな経験になる。結構ペースを上げ下げして、揺さぶってきたんですよ(笑)。

中村 
すごい(笑)。小学生にとっては忘れられない経験になりますし、終盤のスパート合戦における駆け引きも、競技の面白さが凝縮されているので間違いなく、盛り上がりますね。

横田
東京大会は、フロンターレファンの卜部がディレクターを担当して、ファンとの交流をテーマにしたい、と。それで最後にファンもスポンサーもメディアも誰でも参加できるリレーをやりたいって言い出して。募集をかけたらびっくりするくらいの数でした。

中村 
走ることや体を動かすのが好きな人が観戦に来ますもんね。その人たちに走るきっかけを与えるという発想、卜部選手さすがですね。

横田
フロンターレスピリットだと思います(笑)。

中村 
それは嬉しいですね。色々と頑張ってきて良かった(笑)。いろんなアイデアが詰まった大会だったんですね。


●小学生ランナーがペースメーカーを担当した800mレースの模様。

1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式X@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

横田真人

よこた・まさと●1987年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。
富士通を経て、現在はTWOLAPS TRACK CLUB代表として活躍。陸上男子800メートル元日本記録保持者。日本選手権6回優勝。2012年ロンドン五輪で日本人44年ぶりに800メートル出場。同年渡米しサンタモニカトラッククラブで2年間の競技生活を送る傍ら、米国公認会計士試験に合格。16年、現役を引退。

公式ツイッター@MASATO_800
公式HP■TWOLAPS

週間ランキング 今読まれているホットな記事

  1. 新刊 : 石沢麻依
    ティツィアーノ、フェルメール、ボッティチェリ、カラヴァッジョ、ゴヤ、ボス、ベラスケスetc. 美術研究を重ねる芥川賞作家による西洋絵画案内。

    饒舌な名画たち 西洋絵画を読み解く11の視点

  2. 村井理子 クォン・ナミ「海をわたる言葉~翻訳家ふたりの往復書簡」

    認知症となった母と会うのが怖かった 第8便 子の心に後悔を残す実の親子間の介護

  3. 伊藤弘了「感想迷子のための映画入門」

    岩井俊二『Love Letter』のヒロインが一人二役である理由 ――あるいは「そっくり」であることの甘美な残酷さ

  4. 新刊 : 佐川恭一
    笑いと狂気の学歴ノンフィクション

    学歴狂の詩

  5. 新刊 : 爪切男
    美容と健康と結婚と!? 前代未聞の「おじさん美容エッセイ」

    午前三時の化粧水

  6. 群ようこ「ちゃぶ台ぐるぐる」

    驚きの料理の作り方

  7. 村井理子 クォン・ナミ「海をわたる言葉~翻訳家ふたりの往復書簡」

    私は一体、なんのために介護なんてしているのだろう 第7便 先の見えない老親の介護

  8. 学歴にこだわる陰キャはエモ系界隈に逆襲できるのか?【凹沢みなみ×佐川恭一 対談】

  9. 佐川恭一「学歴狂の詩」

    「田舎の神童」の作り方【学歴狂の詩 無料公開中!】

  10. 発達障害女性が、なぜか行く先々でモテてしまう理由とは……?『ダメ恋やめられる!? 発達障害女子の愛と性』人気回試し読み

  1. 進藤やす子「イラストレーター、准教授になる」

    ゼミ1期生、感動の卒業式! 泣かなかった理由と贈る言葉【イラストレーター、准教授になる 第18回】

  2. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻が逝った。オレ、もう笑えないかもしれない 第1話 さよなら、タマちゃん

  3. 野原広子「もう一度、君の声が聞けたなら」

    妻がそばにいることが、あたりまえだと思ってた 第2話 涙が出ない

  4. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    女性用風俗に通う女性たちの心のうちを描くコミック新連載【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話前編】

  5. 野原広子「さいごの恋」

    ロマンス詐欺?教え子に見られて恥ずかしい? 彼への思いの揺らぎの正体は… 第13話 その人、大丈夫?

  6. 進藤やす子「イラストレーター、准教授になる」

    ダブルワーク生活はや2年。正直「ムリ…」と落ち込む夜もあるけれど。【イラストレーター、准教授になる 第17回】

  7. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    同僚の先生に嫌われるのが怖かった教頭の決意【白兎先生は働かない 第14話】

  8. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    同世代の男にはもう懲りたと思っていたけど、新人セラピストの彼に出会って…【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第1話後編】

  9. しろやぎ秋吾「白兎先生は働かない」

    「どうして管理職になってしまったんだろう」教頭先生の苦悩【白兎先生は働かない 第13話】

  10. なかはら・ももた/菅野久美子「私たちは癒されたい 女風に行ってもいいですか?」

    30代独身女性が女風を利用して気づいた「一番大切にするべきなのは…」【漫画:なかはら・ももた/原作:菅野久美子「私たちは癒されたい」第2話後編】