2021.11.13
【中村憲剛×廣瀬俊朗対談 前編】大学、社会人、プロ…常にキャプテンだった二人のリーダーシップ論
ふたりが意識していたキャプテンとしての言葉
廣瀬
言葉という点で憲剛さんはどんなことを意識されていました?
中村
僕がキャプテンの頃はいいところまで行っても結局はタイトルを獲れていないんですよ。勝てない時期が長かったので、そういうときに何を言うかはすごく気をつけていて、負けた試合でも次につながるようなコメントを残すようにしましたね。チームメイトは僕のコメントを見るわけですから、常に視線を上にして、下を向かないように。あとは、チームをより良くしていこうという思いが本気かどうかってすぐ分かるじゃないですか。「廣瀬さんは本当にチームのことを考えてくれているんだな」って思った瞬間に、その選手はついていくと思うんですよ。もし廣瀬さんが適当な言動をとるキャプテンだったら、本当は意見がある選手も「キャプテンに言ってもなあ……」となってしまう。より良くしようと本気だったら、本気の意見も出てくると思うんですよね。僕はフロンターレでタイトルを本気で獲りたかったから、みんながついてきてくれたところはあると思います。
廣瀬
分かります。
中村
廣瀬さんって大学、理系じゃないですか。僕は思い切り文系なんですけど、だから多分お互いのリーダーの資質って違うんだろうなって。僕は理詰めじゃなく、感覚的なところでしゃべっちゃう(笑)。廣瀬さんは逆に論理的に考えるタイプなんじゃないかな?
廣瀬
確かに論理的に、順序を追ってというのはあります。でも、あんまり計算しすぎると伝わらない。だから整いすぎないところで、自分の思いをどう出せるかというのは結構大事にしていましたね。
中村
そうなんですね。ちょっと意外かも。
廣瀬
耳にはスンナリ入ってくるけど、心に響かない言葉だと意味がないと思うので。僕は普段あんまり感情が出ないタイプなんですけど、あえて「ムカつく」とか、「腹立つ」とか、ちょっとそういう感情的な言葉を言うと、逆にみんなに響くことがあるので、そのバランスは少し気にしていました。普段は楽しくやって、大事なところでバッと感情を出すという感じでしたね。
中村
僕は逆でバランスを考える以上に、先に感情が出てしまう。もうちょっと冷静な目が自分に欲しかったなって思います。キャプテンを退いた年にそう感じましたね。やっぱり(キャプテンというのは)チームの先頭を走る分、視野が狭かったな、と。キャプテンを退いて、後ろから全体を見渡せる形になったときに自分のパフォーマンスも変わった感じがありました。
廣瀬
僕も日本代表時代に、ヘッドコーチのエディー(・ジョーンズ)さんからキャプテン交代を告げられて最初はすごく落ち込みましたけど、もうちょっと長期的な視点でチームを見ることができるようになりました。だからこそ2015年のワールドカップメンバーに生き残れたと思っていて。エディーさんも「困ったときにはコイツに相談しよう」みたいな。試合に出られないし、(その葛藤は)大変でしたけど、その役割ができたので31人のメンバーに入れたのかなとは思います。
中村
サッカー日本代表も2010年のワールドカップで川口能活さんがチームキャプテンで、キーパーは1人しか出れませんから、なかなか試合に出られない苦しさがあったなかで、誰よりも一生懸命にトレーニングやっていました。そういう姿を見て周りの選手たちがやらないわけないですよね。だからチームがまとまったんだと思います。能活さんも廣瀬さんも、唯一無二の存在ですよ。
廣瀬
恐縮してしまいます(笑)。
中村
しかし……僕、廣瀬さんより一学年上ですけど、すごく落ち着いていて、なんか話していると背筋がピンとしちゃうんだよなあ(笑)。
廣瀬
やめてください(笑)。憲剛さんこそ落ち着いていらっしゃるじゃないですか。
中村
いや、落ち着いてないですよ。僕は思ったことを瞬発的に言っちゃうし。廣瀬さんはまずかみ砕いてから言葉にする。
廣瀬
それぞれのキャラクターだと思います(笑)。