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思考のパス交換

「金メダルを獲っただけは長続きしない。たかが金メダルなんです」 【鈴木桂治×中村憲剛 対談】

日本サッカー界の“レジェンド”中村憲剛さんが2004年のアテネ五輪100㎏超級金メダリストの鈴木桂治さん(国士舘大学柔道部総監督)を迎えてのスペシャル対談は後編に移ります。

前編では、個人それぞれに合わせた指導での声掛けなど、選手や後輩、学生との「コミュニケーション」について語り合ったふたり。後編のテーマは「モチベーションの持続」について。
2016年に史上最年長となる37歳でJリーグMVPを獲得し、翌17年には川崎フロンターレ在籍15年目にして悲願のリーグ初制覇を達成した中村さん。目標にたどり着きながらも引き続きモチベーションを高め、18年には2連覇を果たします。一方、鈴木さんも金メダルを獲得したアテネ後、モチベーションを落とすことなく05年には100㎏級で世界選手権を制覇しています。

その競技での頂点を知るものだからこその深い言葉の数々、お楽しみください。

(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫)
対談後編。さらにトークは深く濃く。
対談後編。さらにトークは深く濃く。

「井上康生を倒す!」モチベーションはそれだけだった。

中村 
桂治くんはアテネ五輪で金メダルを獲った後、どんなモチベーションを持っていたのか聞きたいですね。

鈴木 
金を獲ったのは100㎏超級で、自分がずっと目指していたのは一つ下の100㎏級。そこには井上康生監督がいて、つまりはこの人がいるから(100㎏級で)出られなかった。言葉は悪いんですけど、100㎏超級は僕にとっておまけのようなもの。金メダルを獲れても、「井上康生には勝ってないでしょ」と。ひょっとしたら誰もそんなこと言ってないかもしれないけど、そういう声があるんだろうなと勝手に思い込んでいたところはあります。どうせそう思っているんでしょ、と。だから「井上康生を倒す」って、(モチベーションは)それだけ。

中村 
井上さんはそれほどの存在だったんですね。

鈴木 
井上監督のことはずっと好きだし、今は家族付き合いをしていますけど、現役のころは、これほど倒したいと思う人はいねえなっていうくらいの人。そのモチベーションは井上監督が(2008年に)引退するまで消えなかったですね。だから井上監督が引退した後、モチベーション的に苦しかった。「鈴木を倒してやる」と息巻くヤツが下の世代から出てきたけど、「いやいやまだまだ役不足だよ」と。

中村 
そのセリフ、かっこいい。

鈴木 
いや、彼らにも負けましたよ。だからと言って自分のモチベーションを最高潮に引き上げてくれた人はいなかった。僕は32歳まで現役としてやったけど、最後の何年かは本当に苦しかったですよ。逆に憲剛くんはどうだったの?

中村 
シルバーコレクターって言われ続けてきて2017年にやっと(タイトルを)獲れて。40歳で辞めると心に決めていた中での優勝だったので、「ああ、これでいつでも辞められるな」という思いと、重圧から解き放たれたので、「次の年はメチャクチャ、サッカーを楽しめそうだな」という両方の思いがあった。それで次のシーズンが始まったら、いつでも引退できるというほうの気持ちが消えて、楽しい気持ちが膨らんで。あの1年は、本当に心から楽しめたシーズンだったなぁ。

鈴木 
それだけ重圧があった、と。

中村 
ずっと優勝できずチームに残っているのが自分だけになったことの重圧と、サポーターや選手のみんなも「一緒にタイトルを獲りたい」と言ってくれるのはすごくうれしいし、ありがたいんだけど、それがある意味重圧になってしまった部分もあったので。そこから解き放たれたら、もう背中に羽根が生えたようになっちゃって(笑)。まあいつも言うんですけど、モチベーションって無理やりつくるもの、保つものじゃないと思っていて、自然に湧いてくるものであるべきというか。どうして湧いてくるかと言ったら、結局はサッカーが好きで好きで、もっとうまくなりたいから。足でボールを扱うスポーツなので、どうしてもミスは起こる。そのミスをどれだけ削れるか。そこにこだわるだけでずっと続けられる。

鈴木 
つまりは「結果として楽しかった」ということでしょ?

中村 
そうそう。

鈴木 
終わってみて楽しかったと言えるのは、柔道なら“勝って金メダルを獲得した人間”と、“金メダルを目指さずに五輪の挑戦した人間”、その2パターンしかない。勝ったから「楽しかった」と言える。

中村 
2位だと誰の記憶にも残らないんだよね。フロンターレの2位8回ってまあまあすごいと思うんだけど、シルバーコレクターってネガティブなワードとして捉えられちゃいますからね。それだけ2位だったからこそ、それを超えた先に、とんでもなく大きな喜びがあった。だから僕(優勝して)あんなに大泣きしたんだと思う。さきほど18年シーズンは「楽しかった」って言いましたけど、そのなかには苦しいことも当然ありましたよ。ただ優勝できなかったそれまでの苦しさとは比じゃなかったというだけ。

鈴木 
日本柔道の代表選手に関して言うとすれば、楽しむなんて一切思わなくていいという考え方。「楽しんできます」と言うのは、僕からしたら“逃げ”だから。そう言っている柔道家は勝てないなって思います。だって楽しくはないから。

中村 
わかる。勝負だからね。

鈴木 
(重圧で)胃がぶっ壊れるほど。「ヤバいくらい緊張しています」でいいと思う。正直な気持ちを発することってすごく大事なので。

中村 
僕も(勝てないときは)胃が痛かったなあ(笑)。それを乗り越えての「楽しい」。ただサッカーではその人なりの方法論もあるし、実際楽しもうとして結果が出ている人もいるだろうから、人それぞれだとは思う。あと僕の場合は、サッカーをとことん真剣にうまくなることを楽しむっていうところもある。

鈴木 
自分もサッカーファンの一人だけど、三浦知良選手のモチベーションってどこにあるのかなってすごく興味がある。

鈴木 
カズさんは本当にすごい。僕に対しても(テクニックのことを)聞いてきたりして、情熱が本当にすごいと思うし、それだけサッカーが好きなんだと思います。

鈴木 
すごいし、うれしい。

中村 
自分も去年40歳になってプレーしたときに、カズさんのすごさをあらためて知った思いがありましたよ。40歳でこれだけきついのに、カズさんは53歳でやっているわけだから。本当にすごい人です。

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中村憲剛

なかむら・けんご●1980年10月31日生まれ、東京都出身。中央大学卒。
2003年、川崎フロンターレに入団。20年の引退まで同チーム一筋のレジェンド。Jリーグベストイレブン8回。16年にはMVPも受賞。日本代表国際Aマッチ68試合出場6得点。10年南アフリカW杯、出場。最新刊『ラストパス』は現在4刷で話題。
公式ブログ■中村憲剛オフィシャルブログ
公式ツイッター@kengo19801031
公式インスタグラムkengo19801031

鈴木桂治

すずき・けいじ●1980年6月3日生まれ、茨城県出身。国士舘中、高、大、大学院卒。早稲田大学大学院卒。
2004年アテネ・オリンピック100kg超級金メダリスト。紫綬褒章受章。20年10月、国士舘大柔道部総監督に就任。男子日本代表の重量級担当コーチも務める。21年4月より国士舘大学体育学部武道学科教授。3児の父であり、釣り、サーフィン、ゴルフなどアクティブに活動中。
公式ブログ■【絆】柔道家・鈴木桂治オフィシャルブログ
公式ツイッター@keijisuzuki594

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