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不気味な植物と意外すぎる訪問者

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第16回 不気味な植物と意外すぎる訪問者

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 緑が濃くなってくると、とても気分はいいのだが、その時季は年々短くなり、すぐに梅雨がやってくる。湿気が苦手な私は、いつも梅雨時はどんよりしがちなのだが、最近は同じ体調の人も多くなってきたようで、自分だけじゃないと少し安心するようになった。
 梅雨が過ぎると小さな庭の雑草がぐわーっと生長するので、また今年もやらねばと、ぼーっと庭を眺めていた。すでに様々な雑草が生長しはじめ、いずれは本格的な雑草抜きをするとはいえ、トラブルは早めに処理したほうがいいと、生長する前に雑草抜きをすることにした。
 多くの雑草は抜けばすぐにさよならしてくれるのだが、さすがにドクダミの根性は相変わらずだった。引っ張ると想像もできないくらいの長い根がずるずると抜けてびっくりする。塀を隔てた隣家には、アカメガシワの木が茂っていたのだけれど、すべてがきれいに伐採されて、それ以降は新しく木は植えられていない。一方でうちの庭のマンサクの木の根元に、昨年とは違う雑草が姿を現していた。なかにはピンクの小さな花までつけているものもある。昨年には影も形もなかったのに、どこからどうやってここにきたのかわからない。とりあえず花が咲いているので、抜くのはやめにしておいたが、こんな小さなスペースでも、何らかの方法でやってきて、生育するものなのだなあと感心してしまった。

 もうひとつは隣家のヤブガラシである。昨年は、放置されたままのそれらが出張してきて、覆い被さられたうちのマンサクの木が辛そうだったのだが、雑草抜きをしたついでに、こちらのスペースに侵入してきた分を取り除いてからは、すっきりした。そして隣家がアカメガシワをはじめすべての木を伐採したのと同時に、敷地内のヤブガラシもすべて抜いたようだったので、これでもう目にすることはないと思っていた。しかし潜んでいたらしい隣家のヤブガラシの残党が、塀の上五センチくらいの位置から、こちらを狙っていた。隣家の土地にあるものには手を出せないので、
「これからどうなるんだろう」
 と、毎日、様子をうかがっていた。するとそのヤブガラシは、自分の陣地にからみつくアカメガシワがなくなったからか、こちらのほうにくねくねと手を伸ばしはじめ、明らかにうちのマンサクの木をターゲットにしている。
「また来たか!」
 である。以前、雑草抜きをしたとき、ヤブガラシについて、「一度拡がってしまうと、その土地から完全に取り去るのは難事」と書いてあったと紹介した。その通りに、全部抜いたと思っても、知らん顔をしてまた伸びてくる。この植物の執着心というか、覆い被さりたい植物があるほうに向かって、まるで心を持っているかのように伸びていくのが、本当に不気味なのだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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