よみタイ

美容院探しとヘアスタイル

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第15回 美容院探しとヘアスタイル

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 私は美容院、今はヘアサロンというのだろうが、そこに行くのがとても苦手だった。どうもリラックスできないのである。ずっと同じ店に通っている人も多いけれど、私の場合は引っ越しも多かったので、そのつど店を変えていた。
 以前、流行の有名サロンのカリスマ美容師にもカットしてもらったことがあるが、さすがにそれまでカットしてくれた人たちとは違うなとは思った。ご本人はとても感じのいい男性だったのだけれど、彼の部下の若いスタッフ全員がものすごく感じが悪く、次の予約も三か月待ちなどといわれたので、一回だけで行くのはやめた。そして髪が伸びると、適当に紙を切る鋏で切るようになった。
 しかしたまにではあるが、撮影をしてもらうこともあり、ちゃんとしなくちゃなあと反省しつつ、長い間、撮影で知り合ったヘアメイクの方に家に来てカットしてもらっていた。しかし彼女が結婚して遠方に引っ越し、出産もしたので、カットしてくれる店を新しく探さなくてはならなかった。
 出不精なので、髪を切るのに電車に乗ってまでは行きたくない。徒歩圏内、駅でいうと二駅か三駅の範囲のところにしたい。椅子がずらっと並んでいて、シャンプーやカットが終わると、担当してくれた人がいうのならともかく、他の客への仕事をしているスタッフの、口先だけの「お疲れ様でした」をいわれる店にも行きたくなかった。プライバシーを詮索してくるような所もいやだった。
 となるとオーナー一人、スタッフ一人くらいの小さい店がいい。以前、住んでいた駅周辺で、そのような雰囲気であろうと当たりをつけた店に行ってみたが、だいたいオーナーがよくても、スタッフがひどかった。気に入ったところが見つからず、インターネットで徒歩圏内にある店を探し、口コミなどを参考に、散歩がてら店の前まで行ってみて、どういう雰囲気かを探りつつ、ある店に決めた。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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