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歩数増加減量作戦とふたたびのセルフレジ

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第12回 歩数増加減量作戦とふたたびのセルフレジ

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 実は新年を迎える前に、体重が二・五キロも増えてしまい、年明け後もずっとそのままだったので、これはいかんと頭を抱えた。御飯がおいしくて、ちょっと多めかなと思いつつも食べていたのが、やはりいけなかったらしい。体脂肪率が「+標準」、内臓脂肪率が「標準」にそれぞれ増えてしまい、体重はともかく、体脂肪、内臓脂肪率は元にもどしたい。多めに食べるのはやめにしたが、必要な食べ物は極端に減らしたくないので、運動するしかない。しかしジムなどには通う気はなく、生活のなかで、倍の歩数を歩くことに決めて、それを実行している。
 ふだん買い物に行って帰ってくるまでの時間は、三十分くらいで、とりあえず家から出たら帰るまで一時間、そこいらへんを歩き回ることにした。そうなるといつもよりも足を伸ばさなくてはならず、一駅、二駅は歩くことになる。まあそれも散歩がてら楽しもうと思い、買い物のついでに、はじめての場所をどんどん歩いていった。
 時計を見ながら小一時間歩き、最寄り駅に戻ってきたときに、もうちょっと歩数を稼ごうとあたりを見まわすと、そのビルの中にあるのは知っていたが、入ったことがない百均の看板が目に留まった。ちょうど切らしていた文房具もあり、ここで必要なものを購入して帰れば都合がいいと、迷わずその店に入った。
 本を発送するためのクッション封筒、ガムテープ、領収書を貼付して税理士さんに渡すルーズリーフなどをカゴに入れ、レジの場所を案内する表示を見ながら歩いていったら、そこはセルフレジしかない店だったのである。
(ぎゃっ)
 思わず一歩下がって立ち止まった。以前、書いたように、レジに店員さんがいて、支払いのみを自分で済ますセミセルフレジは経験したが、セルフレジでは精算したことがない。
(くくーっ、まさかこんなところでセルフレジに出くわすとは)
 まったく心の準備ができていなかった。はじめて行く店だったので、情報もなかったし、他の場所にある店舗には行ったことはあるが、どこも店員さんが会計してくれていた。大手のスーパーマーケットや、大規模な店舗だったら、警戒したかもしれないが、同じ百均の系列店はみんな同じ精算方法だろうと思い込んでいたのが間違いだったのだ。
(どうしてくれよう)
 周囲を見まわしながら、何かあったときに助けを求められる店員さんはいるかと探したが、品出しをしている人が遠くに二人いただけで、セルフレジの周辺には誰もいない。しかし前期高齢者は世の中についていかなくてはならないのである。

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新刊紹介

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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