よみタイ

毎日をつまらないと嘆く人と面白いことを見つける人

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第14回 毎日をつまらないと嘆く人と面白いことを見つける人

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 先日、友だちと会ったら、彼女が、
「最近、ほぼ同じ年齢の人たちから、同じ相談をされて困っていることがあるの」
 という。彼女は私よりも八歳ほど年下で、相談してくるのはその彼女よりも十歳ほど若い、私からすると十八歳ほど年下の人たちである。どういう相談なのかとたずねたら、
「毎日、つまらない。何か楽しいことはないかしら」
 というのだそうだ。
 相談してくる女性たちには家庭があり、毎日の家事はそれなりにこなしているのだが、それは必要だからやっているだけで、日常に何の楽しみもないと訴えるそうだ。たしかに年齢的に、親の体調、介護、子どもの受験、就職、結婚などの問題が一度に噴出する年頃でもあるし、自分の体調も若い頃と違って思わしくないのに、それ以外の問題がどっと押し寄せてきたら、気分が塞いでしまうのも理解できないわけではない。
「それでその人たちは何を知りたいの」
「とにかく楽しいことを教えてくださいって、私に聞くのよ」
 と友だちは困惑した表情になった。
 その話とは少し離れるが、私が昔、困ったのは、ほとんど面識のない人に、
「面白い本を教えてください」
 と聞かれることだった。私は本でも音楽でも、他の人が嫌いといっても、自分が好きだったらいいじゃないかと思っていたし、新刊書店はもちろん、古書店を巡って面白そうな本を自分で探して歩いていた。もちろんなかには、思ったほど面白くはなかった本もあったけれど、それは自分が選んだ本なので、経験のひとつとして納得していた。
 私と同年配の本好きや音楽好きの人たち、それ以外の趣味を持っている人たちも、今のようにパソコンやスマホを開けば、山のように情報があふれている世の中ではなかったので、ささやかな手がかりから、こつこつと自分で楽しみを見つけていったのである。自分が面白いと思った本のストックはあるけれど、それは私が面白いと感じた本なので、他の人が同じ気持ちになるとは限らない。そこが困るのである。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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