2023.4.26
毎日をつまらないと嘆く人と面白いことを見つける人
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。
版画/岩渕俊彦
第14回 毎日をつまらないと嘆く人と面白いことを見つける人

先日、友だちと会ったら、彼女が、
「最近、ほぼ同じ年齢の人たちから、同じ相談をされて困っていることがあるの」
という。彼女は私よりも八歳ほど年下で、相談してくるのはその彼女よりも十歳ほど若い、私からすると十八歳ほど年下の人たちである。どういう相談なのかとたずねたら、
「毎日、つまらない。何か楽しいことはないかしら」
というのだそうだ。
相談してくる女性たちには家庭があり、毎日の家事はそれなりにこなしているのだが、それは必要だからやっているだけで、日常に何の楽しみもないと訴えるそうだ。たしかに年齢的に、親の体調、介護、子どもの受験、就職、結婚などの問題が一度に噴出する年頃でもあるし、自分の体調も若い頃と違って思わしくないのに、それ以外の問題がどっと押し寄せてきたら、気分が塞いでしまうのも理解できないわけではない。
「それでその人たちは何を知りたいの」
「とにかく楽しいことを教えてくださいって、私に聞くのよ」
と友だちは困惑した表情になった。
その話とは少し離れるが、私が昔、困ったのは、ほとんど面識のない人に、
「面白い本を教えてください」
と聞かれることだった。私は本でも音楽でも、他の人が嫌いといっても、自分が好きだったらいいじゃないかと思っていたし、新刊書店はもちろん、古書店を巡って面白そうな本を自分で探して歩いていた。もちろんなかには、思ったほど面白くはなかった本もあったけれど、それは自分が選んだ本なので、経験のひとつとして納得していた。
私と同年配の本好きや音楽好きの人たち、それ以外の趣味を持っている人たちも、今のようにパソコンやスマホを開けば、山のように情報があふれている世の中ではなかったので、ささやかな手がかりから、こつこつと自分で楽しみを見つけていったのである。自分が面白いと思った本のストックはあるけれど、それは私が面白いと感じた本なので、他の人が同じ気持ちになるとは限らない。そこが困るのである。