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老婆か妖婦か。激しい魔女狩りが起こった理由とは 第6回 社会の害悪の象徴として描かれる魔女

 十六世紀前半、ドイツの画家たちは民間伝承に基づき、様々な魔女のイメージを作り上げていった。その中で木版画や油彩画を通して、独自の魔女像を数多く生み出したのがハンス・バルドゥング・グリーンである。この画家の作品では、魔女はしなびた肉体に荒々しく逆立つ髪の老女、もしくは豊満な肉体を露わにした若い女性の姿をとって現れる。伝統的な図像に、裸体やみだらな姿勢など性的な要素を追加して、より官能性を強調してみせたのである。その一つが、キアロスクーロ(明暗のコントラストを強調した技法)木版画〈魔女のサバト〉(一五一〇年)であり、森を舞台とした六人の魔女の集いが、おどろおどろしく浮かび上がっている。

ハンス・バルドゥング・グリーン〈魔女のサバト〉(版画)1510年 ドイツ、ベルリン[国立版画館]
ハンス・バルドゥング・グリーン〈魔女のサバト〉(版画)1510年 ドイツ、ベルリン[国立版画館]
(1)地面に三叉のフォーク(2)壺を覗き込む老女(3)三叉のフォークに掛けられた腸詰肉と牡山羊の顔(4)壺から覗く人間の身体の一部
(1)地面に三叉のフォーク(2)壺を覗き込む老女(3)三叉のフォークに掛けられた腸詰肉と牡山羊の顔(4)壺から覗く人間の身体の一部

 地面には三叉さんさのフォーク(1)が、三角形をなすように置かれていた。その中に腰を下ろす魔女は、偽ヘブライ文字が記された壺を前に儀式を行っているようだ。壺を両脚で囲い込む女性の右手には匙が握られ、左手は開きかけた蓋を抑え込んでいるとも見えるだろう。あたかもパンドラのはこが開いたように、壺と蓋の隙間から勢いよく禍々まがまがしい煙があふれ出し、上昇気流となって宙に舞い上がる。その隣で老女は左手に長い布を、右手に生贄と思しき鶏肉を載せた皿を掲げ、呪文をかけるがごとく壺を覗き込む(2)。画面に向かって左、杯を掲げる女性の後ろ姿の奥に、フォークに掛けられた腸詰肉と牡山羊の顔が見える(3)。魔女と共に描かれる腸詰肉は男性性器を表し、悪魔の化身である牡山羊は、箒や三叉のフォークと同じく飛行の際の乗り物と考えられていた。事実、儀式の上空ではまさに髪をなびかせた裸体の女性が、牡山羊に後ろ向きにまたがっている。彼女が握るフォークは壺を挟み込み、そこから脚の一部が覗いているのが分かるだろう(4)。これは、アルブレヒト・デューラーの木版画〈魔女〉(一五〇〇年頃)にもみられるように、当時広まっていた空中飛行のイメージであった。その他、画面内にあるのは、全て魔女と深く結びつくものばかりだ。画面右側の枯れ木の根元にうずくまる猫は使い魔を、凸面鏡は占いや魔術、そして左下に転がる馬や人間の頭蓋骨は儀式の生贄を表している。

アルブレヒト・デューラー〈魔女〉1500年頃 日本、東京[国立西洋美術館]
アルブレヒト・デューラー〈魔女〉1500年頃 日本、東京[国立西洋美術館]

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石沢麻依

1980年、宮城県仙台市生まれ。東北大学文学部で心理学を学び、同大学院文学研究科で西洋美術史を専攻、修士課程を修了。2017年からドイツのハイデルベルク大学の大学院の博士課程においてルネサンス美術を専攻している。
2021年「貝に続く場所にて」で第64回群像新人文学賞、第165回芥川賞を受賞。
著書に『貝に続く場所にて』『月の三相』がある。

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