2023.2.23
老婆か妖婦か。激しい魔女狩りが起こった理由とは 第6回 社会の害悪の象徴として描かれる魔女
十六世紀前半、ドイツの画家たちは民間伝承に基づき、様々な魔女のイメージを作り上げていった。その中で木版画や油彩画を通して、独自の魔女像を数多く生み出したのがハンス・バルドゥング・グリーンである。この画家の作品では、魔女はしなびた肉体に荒々しく逆立つ髪の老女、もしくは豊満な肉体を露わにした若い女性の姿をとって現れる。伝統的な図像に、裸体や猥らな姿勢など性的な要素を追加して、より官能性を強調してみせたのである。その一つが、キアロスクーロ(明暗のコントラストを強調した技法)木版画〈魔女のサバト〉(一五一〇年)であり、森を舞台とした六人の魔女の集いが、おどろおどろしく浮かび上がっている。
地面には三叉のフォーク(1)が、三角形をなすように置かれていた。その中に腰を下ろす魔女は、偽ヘブライ文字が記された壺を前に儀式を行っているようだ。壺を両脚で囲い込む女性の右手には匙が握られ、左手は開きかけた蓋を抑え込んでいるとも見えるだろう。あたかもパンドラの匣が開いたように、壺と蓋の隙間から勢いよく禍々しい煙があふれ出し、上昇気流となって宙に舞い上がる。その隣で老女は左手に長い布を、右手に生贄と思しき鶏肉を載せた皿を掲げ、呪文をかけるがごとく壺を覗き込む(2)。画面に向かって左、杯を掲げる女性の後ろ姿の奥に、フォークに掛けられた腸詰肉と牡山羊の顔が見える(3)。魔女と共に描かれる腸詰肉は男性性器を表し、悪魔の化身である牡山羊は、箒や三叉のフォークと同じく飛行の際の乗り物と考えられていた。事実、儀式の上空ではまさに髪をなびかせた裸体の女性が、牡山羊に後ろ向きに跨っている。彼女が握るフォークは壺を挟み込み、そこから脚の一部が覗いているのが分かるだろう(4)。これは、アルブレヒト・デューラーの木版画〈魔女〉(一五〇〇年頃)にもみられるように、当時広まっていた空中飛行のイメージであった。その他、画面内にあるのは、全て魔女と深く結びつくものばかりだ。画面右側の枯れ木の根元に蹲る猫は使い魔を、凸面鏡は占いや魔術、そして左下に転がる馬や人間の頭蓋骨は儀式の生贄を表している。
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