よみタイ

昔の食事に戻る

物を減らす、無駄なことはしない、必要以上に買わない。 「しない。」生活のなかだからこそ、手に入れるもの、するべきことは 試行錯誤を繰り返し、日々吟味している群ようこ氏。 そんな著者の「しました、食べました、読みました、聴きました、着ました」 など、日常で「したこと」をめぐるエッセイ。 自宅でできるあんなこと、こんなことのヒントがいっぱいです! よみタイ好評連載の『いかがなものか』好評発売中! 書籍情報はこちらから!

今日は、これをしました 第7回

 九月一日、パソコンを立ち上げて、ニュースなどをチェックし、グーグルの検索画面を見た。その画面には時折、季節のイベント、たとえばハロウィンやクリスマスなどのイラストが描かれていたりするのだが、その日は、しまの着物姿の女性が描かれていた。私の記憶では、そこで和装の女性の画像を見たのははじめてではないかと思う。彼女は膝の上に本を置き、周囲には本が積み重なっていて、傍らにネコが寝ている。そして丸窓からは塔が見えている。もしやこれは幸田文がモデルではと調べてみたら、九月一日は彼女の誕生日だった。そして丸窓から見えたのは彼女が再建に尽力した、法輪寺の三重塔だった。グーグルはこんなこともするのかと、ちょっと楽しくなった。
 ところでここ何か月か、毎日の自炊の食卓に、ぬか漬けが登場している。とても便利なぬか床を見つけて愛用しているのだ。実はぬか漬けを作るのは、はじめてではない。最初は二十年ほど前、実家でやっていたように、円筒形の琺瑯ほうろうの蓋つき容器に、ぬか、昆布、唐辛子などを入れ、毎日、手をつっこんでかき回していた。まだ若かったうちのネコは、容器の蓋を開けると急いでやってきて、私がぬかをかき回している間、鼻をひくひくさせて匂いをかいでいた。ネコも喜ぶし、私もその作業が楽しかったのだが、暑い日が続いたある日、蓋を開けたら悪臭を放っていて、さよならせざるをえなかった。
 次は冷蔵庫に入れられるものにしようと、琺瑯の密閉容器とぬか床がセットになったものを購入し、しばらくの間使っていたが、これもだめにしてしまった。ぬか漬けを作るのは自分には向かないのだろうと、以降、食べたいときは購入していたのだけれど、ひとり暮らしには量が多かったり、日を置くと塩気がきつくなってきたりして、なかなかうまくいかなかった。いつも食卓にぬか漬けがある生活はあきらめていた。
 ところがいつも見ている女性のインスタグラムで、冷蔵庫で簡単に作れるぬか漬けグッズが紹介されていた。ジッパータイプの袋の中に、あとは食材を入れるだけになっている、ぬか床が入っているという。これは便利そうだと販売している楽天市場のサイトを見てみると、三千件以上の評価、それも五段階評価で四・六以上と高評価なのである。すでに世の中では有名なもののようだった。発売しているのは「こうじや里村」で、私が購入したのは「冷蔵庫で育てる熟成ぬか床800g スタートセット 冷蔵庫専用」、税込千円で送料無料。ネコポスで届くので、受け取りを家で待っている必要はなく、とても楽だった。その他には同じぬか床に、コンパクト容器がついたものもあった。
 ポスト投函されたものを開けてみると、縦、横二十センチ、厚みが九センチほどのジッパー付きビニール袋に、ぬか床が入っていた。それに好きな野菜を漬けて、冷蔵庫に入れれば、ぬか漬けができる。家に真昆布があったので、それを切って入れてみた。捨て漬けが不要なので、まずいちばん好きなきゅうりとみょうがを漬けた。古漬けが苦手なので、前日の夕食後に漬け、翌朝から食べるようにして、いったいどうなるのかと楽しみにしていた。
 翌朝、きゅうりとみょうがを取り出して、食べてみると、
「うまいっ」
 と大声でいいたくなった。漬けるときに塩もみをしなかったので、塩気は少なめだが、それが私にはよかった。レビューでは最初は塩辛いとあったのだけれど、私はそうは感じなかった。きゅうりに塩もみをしなかったからだろうか。塩分については人それぞれの好みもあるし、私は浅漬けが好きなので、漬けている時間は比較的短い。もっと塩気の欲しい人は、ぬか床に塩を加えたり、そうではない場合はたしぬかをすればいいわけで、自分なりの好みのぬか漬けができる。
 前日に漬けた漬け物は翌日中にすべて食べきり、そして夕食後にまた漬ける。その繰り返しをずっと続けている。パンフレットには一般的にぬか漬けをするイメージの、きゅうり、なす、にんじん、大根、かぶなどの野菜の他に、意外だったのだが、セロリ、アボカド、かぼちゃ、ミニトマト、長芋、しめじなどが紹介されていた。別の容器にぬか床を入れて豆腐も漬けられると知った。それらにも興味はあったのだが、まずきゅうりとみょうがを極めようと、この二品をずっと漬け続けている。
 起きた瞬間から汗がにじんでくるような酷暑の日でも、よく寝起きに水を飲むようにといわれるけれど、朝起きたらすぐに歯ブラシのみで歯を磨き、ぬか床に漬けておいたきゅうりとみょうがを取り出し、それを切って何切れか食べると、さっと汗がひいて目が覚めた。朝、昼、晩と食べても飽きないし、食べるたびにおいしいと思っている。
 十代、二十代の頃にはぬか漬けにはまったく興味がなかったけれど、中年を過ぎてからはぬか漬けが好きになった。これも年齢のせいなのだろうか。そろそろぬかも減ってきたので、たしぬかも必要になってきた。こちらも千円(送料無料)だそうである。長期で使用しない場合は、漬けている野菜をすべて取り出して、ぬかの袋ごと冷凍庫に入れておく。再び使う場合は常温で自然解凍すればいいとのことなので、これからも気軽に使えそうだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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