よみタイ

プラスチックにため息

 洗濯の際に、合成繊維のマイクロプラスチックをなるべく流さないようにしなければと思いつつ、ふと洗濯物を入れてあるバスケットを見ていたら、
「これはまずいんじゃないか」
 と今さらながら気がついた。それは洗濯ネットだった。これも明らかにマイクロプラスチックの素である。いくら着る物に気をつけても、これを使っていたら意味がない。
「プラスチック製ではないネット状のもので、なかに入れたものが洗濯できるものなど、あるのだろうか」
 こちらも調べてみたら、アウトドアメーカーのパタゴニアで販売されていた。『GUPPYFRIEND ウォッシング・バッグ』というかわいい名前のものだ。大きさは五十センチ×七十センチ。ただし袋の半分が容量の限度になっている。価格は三千七百円+税。早速、買ってみると、素材はつるつるとしたメッシュとは感じられない手触りで、これが水を通して洗濯ネットと同じ効果があるとは思えなかった。箱にはナイロン製と表示してある。
「ナイロン?」
 と思ったのだが(ヨーロッパではポリアミドと表示される)、プラスチック・フリー生活には、比較的安全と書いてあった。サイトではリサイクル可能な素材とある。合繊であっても、洗濯時のマイクロプラスチックの流出が減らせるのなら、そのほうがいい。パタゴニアのサイトを見ると、同じ合成繊維の服を洗った場合、私が使っているような縦型式の洗濯機のほうが、ドラム式よりも七倍の合成繊維を下水に流してしまうとあって驚いてしまった。
 もともとこのウォッシングバッグは、フリース素材のために作られたらしい。私は静電気体質なので、フリースのものは持っていないのだが、多くの人に重宝されている衣類だろう。またペットボトルから作られるとかで、エコな衣類だとも思われていた。しかし洗濯をしたときに、その繊維が下水に流れてしまうと、いったい何のためにリサイクルをしたかわからなくなる。そこで繊維を流さないために、このウォッシングバッグが作られたようだ。
 これで大丈夫なのかと不思議に思いながら、天然繊維のものはもちろん、天然繊維と合成繊維が混紡になっているものも入れて洗ってみた。たとえば私が編んだ靴下の毛糸は、丈夫にするために合成繊維が少し含まれている。手洗いするときっとマイクロプラスチックが流れてしまうので、他の衣類と一緒にバッグに入れた。
 どきどきしながら洗い終わった洗濯機の蓋を開けて、バッグのなかを確認すると、ちゃんと水が浸透してきれいに洗えていた。このウォッシングバッグは、洗い終わった後が肝心で、目の粗い洗濯ネットだとそのままマイクロプラスチックを含んだ繊維くずが流れていってしまうが、目がとても細かく流れ出ないということは、それらがバッグの内側に留まる。同時に洗濯物にもくっついているというわけで、見てわかるそれらの繊維くずを取り除いて、ゴミ箱に捨てなければならない。私の場合はごく少量だったが、フリースだったら、相当、溜まっているのかもしれない。しかし洗濯のたびに、この繊維くずをそのまま流してしまうことを考えれば、このひと手間も必要だろう。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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