よみタイ

プラスチックにため息

 結論からいえば、生活環境からプラスチックを完全に排除するのは無理だ。風呂場を見回すと、風呂場自体がプラスチックなので、どうしようもない。うちは古いマンションで、二年ほど前に大家さんが、洗面所や脱衣所、風呂場の内装や設備を新しくしてくれたのだが、プラスチックのかたまりの立派な洗面化粧台が設置されて、申し訳ないが、がっかりしてしまった。古かったけれど陶製の小さな洗面所の流しが懐かしかった。
 しかしプラスチックがあるからこそ、衛生面で恩恵を受け、清潔な暮らしが保てている部分も大きい。設備品のプラスチックは破壊されない限り、それが川や海に流出する可能性は少ないけれど、生活のなかで当たり前に使って、当たり前に捨てているプラスチックについて考えることが必要だろう。しかしそれらがあまりに多すぎて、それを避けて購入するのは難しい。
 過剰包装を避けるため、再び量り売りの店舗も少しずつ増えているようだけれど、うちの近所にはまだない。意外に地方にたくさん残っているようだ。昔から同じやり方で営業を続けている店もあれば、スーパーマーケットの経営者がプラスチックフリーに関心があるのだろうか、週に何日か、調味料などの量り売りを導入している店舗もできたようだ。都内にもあるけれど、どちらかというと、場所も雰囲気も流行のお洒落系といった感じで、地元や生活に根ざしたものとは、まだまだいかないが、そのような店でもないよりはあったほうがずっといい。そういった店づくりにしないと、若い人にアピールしにくいのかもしれない。
 私の性格からいって、目をつり上げて絶対にやらねばと気張っていたわけではなく、自分のできる範囲でプラスチックを使うのをやめ、それによるちょっとの不便さを楽しんでいたところもあるのだが、それにしても次から次にプラスチックや過剰包装が生活のなかに入ってくるので、ため息が出てくる。たとえば食べたいものがあっても、それが個包装されていたりすると、どれだけのプラスチックゴミが出るのかを考え、買うのをやめてしまうことも多い。衛生面を考えているのか、個包装のものが多くなってきたような気もしている。簡易包装だと食品の賞味期限がより短くなりそうなので、店側としてはフードロスとの兼ね合いもあるのだろう。
 気をつけていても、プラスチックや過剰包装は避けられず、目下の悩みの種なのだ。肉や魚にしてもトレイにパックされていないものを買おうとしたら、私の場合は電車に乗って、デパ地下の生鮮食料品の対面売場に行かないといけない。近所の精肉店も新鮮な魚を扱っていた鮮魚店も閉店してしまったからだ。毎日、対面売場で買えればいいけれど、現状ではとても無理だ。
 プラスチックフリーの生活をしている方々のサイトを見ていたら、そのなかで、
「少人数が完璧にプラスチックフリーの生活をするよりも、不完全でも多人数がプラスチックフリーを心がけたほうが、ずっと効果がある」
 という意味合いの文章が紹介されていて、やってもやっても不毛のような気がしていた私は、
「なるほど、それでいいんだな」
 と気が楽になった。これからもこんな調子で、少しずつプラスチックフリーにしていこうと思っている。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『しあわせの輪 れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』『こんな感じで書いてます』『捨てたい人捨てたくない人』『老いてお茶を習う』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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